『エベレスト3D』は自然の脅威を奥行きのある映像でとことん知らしめる、サスペンスフルな実話の映画化!

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『エベレスト3D』
11月6日(金)より、TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー
配給:東宝東和
©Universal Pictures
公式サイト:http://everestmovie.jp/

 

 近年、3D作品が増えてくるにつれて、見る側はちょっとやそっとの映像では驚かなくなってきた。目が肥えてくると、飛び出してみえることや、奥行きのある映像はもはや当たり前のこと。より3D映像に仕立てる必然性がある題材を求めるようになっている。
 本作はその点では申し分がない。1996年5月、ヒマラヤ山脈の最高峰エベレストで起きた事故を再現したサバイバル・アドベンチャー。想像を絶する嵐のなかで、登山者たちがどのような運命を辿ったかを克明に綴る展開だ。もちろん、実際に嵐のなかで撮影するのは困難ながら、スタッフ、キャストはネパール、イタリアン・アルプスにロケを敢行。過酷な気候の高山での撮影に臨んだ。ピンと張りつめた緊張感のなかに雪山の雄姿を浮き彫りにし、そこに挑む人間たちの姿が迫力いっぱいに捉えられている。
 なにより凄いのは高さを強調した画角だ。奥行きのある3D映像をとことん活かして、高所にいるサスペンスを際立たせる。来年、公開予定の『ザ・ウォーク』では高層ビルの綱渡りで高さを強調しているが、ここではヒマラヤの圧巻の一大パノラマのなかの登山。吊り橋や切り立った岩壁を相手に、豆粒のような人間たちが懸命の努力を繰り広げる。息を呑むようなヴィジュアル・インパクトなのだ。
 しかも、大自然の映像パワーに拮抗すべく、ドラマ部分にも力が入っている。実際の事故に遭遇した人々、関係者に綿密な取材を課したのはもちろん、事故当日に現地でIMAX作品を撮影していたデイビッド・ブリーシャーズを共同製作に迎え入れて、当時の状況をきっちりと把握。その上で脚本には『永遠(とわ)の愛に生きて』や『グラディエーター』で知られるウィリアム・ニコルソンと、『スラムドッグ$ミリオネア』のサイモン・ボーフォイを起用。山を征服することを人生の目標に置いた人たちの心情、家族との葛藤を紡ぎながら、抗うことのできない大自然の猛威を軸にドラマを構築してみせる。
 魅入られそうになる大自然の圧巻の映像と山に挑む多彩な人間模様をテキパキと描きだしたのはアイスランド出身で、アメリカ映画界では『ハード・ラッシュ』や『2ガンズ』をヒットチャートに送り込んだバルタザール・コルマウクル。製作が『ノッティングヒルの恋人』から『裏切りのサーカス』、『ファーゴ』、『ショーン・オブ・ザ・デッド』、『博士と彼女のセオリー』など、常に映画好きを喜ばす作品を生み出し続けるワーキング・タイトル・フィルムズなのだから、このツボを押さえた人選も頷ける。
 しかも、キャスティングが心憎い。『ターミネーター:新起動/ジェネシス』のジェイソン・クラーク、『インヒアレント・ヴォイス』のジョシュ・ブローリン、『ウィンターズ・ボーン』のジョン・ホークス、『声をかくす人』のロビン・ライト。『チェンジリング』のマイケル・ケリー、『アバター』のサム・ワーシントン、『プライドと偏見』のキーラ・ナイトレイ、『アンジェらの灰』のエミリー・ワトソン、『ブロークバック・マウンテン』のジェイク・ギレンホールに、イギリスのテレビシリーズ「秘密情報部トーチウッド」に出演した森尚子まで、多士済々。それぞれが持ち味を発揮しつつ絶妙のアンサンブルをみせている。

 ニュージーランドで登山ガイド会社を営なむロブ・ホールは身重の妻を残して、エベレスト登頂ツアーに向かった。今回の顧客には有名なジャーナリストのジョン・クラカワー、アメリカ人医師のベック・ウェザース、山に登ることに人生を賭けているダグ・ハンセン、7大陸最高峰の完全制覇を目指す難波康子なども含まれていた。
 彼らはまずカトマンズで高地に慣れる訓練をした後、ベースキャンプから第4キャンプまで徐々に登っていく。ところがエベレストは各国からの登山者で溢れていた。ホールはアメリカ人ガイド、スコット・フィッシャーのチームと協力して、登頂する決断を下す。
 そして1996年5月10日、第4キャンプを出発したチームはさまざまなアクシデントに遭遇しつつ、クラカワーと難波康子は登頂に成功するが、ホールは前回に頂上直前で諦めたハンセンに対して情けをかけたばっかりに、思わぬ危機に陥る。しかも強烈な嵐がエベレストに襲いかかってきた。エベレストに取り残された人間たちの生命を守ることができるのか――。

 エベレスト登頂の名のもとに、各国からさまざまな人たちが集まり、訓練と登頂のなかでそれぞれの事情が明らかになる展開。群像ドラマとしては定番の構成といっていいが、演者の個性でぐいぐいと引っ張られる。山にいるときの充実感に比べて日常生活に物足りなさを感じている人間もいれば、日常は山に登るために懸命に金を稼ぐ場と考える人もいる。いずれの人たちも山に魅入られ、どんな困難も厭わない人たち。映画は、凡人がみれば無謀とも思える努力を重ねる人々の姿を、説得力を持って描きだす。山を愛する者たちの連帯感、友情がきっちりと綴られているので、登頂後のスペタクルがぐんと活きてくるのだ。
 コルマウクルの演出は、ドラマ部分を過不足なく紡ぎながら、見せ場は3D映像のケレンでとことん盛り上げるスタイル。メリハリの利いた語り口が好もしい。やはりアイスランド出身のせいだろうか、寒さ、雪の感覚を、映像に焼き付けることに長けている。凍傷や酸素不足の辛さが画面を通して伝わってくる感じなのだ。
 もちろん、なによりの魅力は画面に焼き付けられたヒマラヤの威容である。ネパールやイタリア・アルプスにロケをした賜物。マイナス30度の氷河での撮影からはじまって、俳優を交えたシーンにも映像に緊迫感が漂うのは、苛酷な撮影だった証明だ。人間が立ち 入るのを拒むかのような大自然を前に、懸命に抗う人間たち。だからこそ、登頂を極めた人間の喜びは大きいのだろう。彼らが惹かれる一端は本作から感じ取ることができる。

 俳優たちもホール役のクラーク、クラカワー役のケリー、ウェザース役のブローリン、ハンセン役のホークス、フィッシャー役のギレンホールなど、いずれも山を愛し、山に取り憑かれた男たちを好演すれば、女優陣は彼らをサポートする妻や、サポートメンバーをさりげなく演じている。いずれも演技には自信のある存在ばかりで安心してみていられる。

 実際の事件なのだから結果は分かっているはずなのに、最後の最後まで手に汗を握ってしまう。これぞ、大自然のスペクタクルを体験する作品。まこと3Dでみるのに格好の題材である。