“事実は小説よりも奇なり”ということばがあるが、波乱万丈でフィクションを超える面白さの実話は確かに数多い。近年、実話の映画化が幅を利かせているのは、練り込んだフィクションが少ないせいもあるが、起伏に富んだストーリーが実存しているからだ。なにせ面白くて、事実という重みがあるので鬼に金棒というところだ。
ジョージ・クルーニーが製作、共同脚本、監督、主演を務める本作はその好例といっていい。ロバート・M・エドゼルの書いたノンフィクション「ミケランジェロ・プロジェクト」をもとに、『スーパー・チューズデー~正義を売った日~』でもチームを組んだグラント・ヘスロヴがクルーニーと共同脚本した、第2次大戦下の歴史秘話。ナチスに美術品が奪われたり、戦闘によって破壊されたりすることを防ぐために、アメリカで秘密裏に結成された特殊チームの活躍を描いている。
スケールの大きい、痛快冒険作品を望んでいたクルーニーに、ヘスロヴがこの原作を持ちこんだのがきっかけというが、個性に富んだメンバーをチームに引き入れる趣向から、厳しい戦火の下でのナチスとのせめぎ合いまで、まこと、冒険ドラマの醍醐味を存分に味わえるストーリーとなっている。
実際に独裁者ヒットラーはヨーロッパ中の美術品を次々と略奪。ダ・ヴィンチ、ラファエロ、フェルメール、モネ、ミケランジェロ、ファン・エイクの名画の数々が奪われてしまった。戦争の大勢が決した時期になって、アメリカ政府は略奪された名画の回収のチームを結成した経緯がある。本作では、その史実に基づきながら、エンターテインメントとしての面白さ重視で映像化してみせた。
俳優のみならず、監督としても豊かな力量を誇るクルーニーは、過去の戦争エンターテインメントの傑作、『ナバロンの要塞』や『特攻大作戦』、『大列車作戦』などに連なる冒険世界を構築すべく、当時のヨーロッパの雰囲気や美術品の数々に至るまで、完璧に再現。語り口にけれん味はないものの、ナチスの隠し場所を推理するミステリー的な興味もふくめて、見る者をぐいぐいと惹きこんでいく。
なにより楽しいのはチームのメンバーとなる豪華なキャスティングだ。『オーシャンズ11』の例に倣って、とことんヴァラエティに富んだ顔ぶれを揃えている。『ボーン・アイデンティティ』でアクション・ヒーローとなり、リドリー・スコット監督作『オデッセイ』が待ち遠しいマット・デイモン。『ブルー・ジャスミン』でアカデミー主演女優賞を手にしたケイト・ブランシェット。『ロスト・イン・トランスレーション』が忘れ難いビル・マーレイ。加えて『アルゴ』のジョン・グッドマンに『アーティスト』でアカデミー主演男優賞に輝いたフランスのジョン・デュジャルダン、『ゴスフォード・パーク』のボブ・バラバン、『アイリス』のヒュー・ボネヴィルまで、通好みの映画ファンには応えられない圧巻の布陣である。
第2次大戦勃発とともに、ハーバード大学付属美術館館長のストークスは、ナチスによる美術品略奪の危機を訴え続けた。その甲斐あって、ルーズベルト大統領はストークス自身がチームを担うように命じる。
ストークスはメンバー集めに奔走することになる。選ばれたのがニューヨーク・メトロポリタン美術館学芸員のグレンジャー、イギリスの歴史家ジェフリーズ、シカゴの建築家キャンベル、フランス人美術商クレルモン、美術史学者のサヴィッツ、彫刻家のガーフィールド。ストークスをふくめた7人が特殊部隊“モニュメンツ・メン”のメンバーとなる。共通しているのはいずれも戦争体験がないということだった。
ノルマンディーから上陸した彼らだが、最前線では美術品の保護などはしていられない。協力者のいないまま、ヨーロッパ各地を捜索するがなかなか成果が上がらない。やがて、敗色が決定的になったナチスは敵になにも渡さず破壊するという“ネロ指令”を発動する。“モニュメンツ・メン”は必死になって、美術品奪還を遂行するが、支払った犠牲も大きなものだった――。
実際と異なり、メンバーを7人にしたのは『七人の侍』の影響か。黒澤明作品同様、ここでも個性もさまざまなメンバーを選んでいく過程がなんとも楽しい。グレンジャーを演じるデイモンをはじめ、ジェフリーズ役のボネヴィル、キャンベル役のマーレイ、クレルモン役のデュジャルダン、サヴィッツ約のバラバン、ガーフィールド役のグッドマンまで、いずれ劣らぬ芸達者揃い。それぞれが楽しみつつキャラクターに挑んでいる感じに思わずニヤリとさせられる。クルーニーはメンバーをまとめるストークスに扮しているが、メンバーそれぞれの個性を引き出すために控えめに演じているのが好もしい。
少し残念なのは、各地に飛んだメンバーそれぞれの活動が並行して描かれるために、1本のストーリーとしてのまとまりが弱くなったことだ。それぞれのエピソードは興味深いだけに残念ではある。もっとも、アメリカでは史実と異なることがやり玉に挙げられたというが、エンターテインメントとして製作したのだから、設定が針小棒大になるのは当たり前。面白くつくりたい気持ちのなせる技で、それをあげつらうのは野暮というものだ。
“モニュメンツ・メン”とナチスの隠し場所捜索をめぐる攻防、最後はどの国よりも先に隠し場所を探し当てるサスペンスで盛り上げる。まこと美術品の救出という大義名分のなかに、大国の思惑も秘められている。とはいいながら、あくまでストーリーの面白さ、俳優の持ち味を満喫するタイプの作品。クルーニーの演出は知が勝って、はったりがないのは惜しいものの、これはこれで充分に楽しめる。
一時、日本公開が危ぶまれたこともあった本作は、おとなが楽しめる仕上がり。キラ星のごとき美術品の数々を愛でながら、俳優たちの味わいを堪能する。秋にふさわしいエンターテインメントである。