
2月13日(金)より、TOHOシネマズ日比谷、109シネマズ プレミアム新宿、新宿ピカデリーほか全国の映画館で公開
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト:Crime101.jp
孤独な犯罪者の軌跡をクールに浮かび上がらせた、ネオノワールの登場である。
陽光さんさんたるロサンゼルスを舞台にしたクライム・ストーリーというと、『ヒート』やつい最近公開された『殺し屋のプロット』を頭に浮かべる。明るく見えてこの都市の闇はかなり深いのだ。しかも本作がドン・ウィンズロウの小説の映画化となれば、さらに食指がのびる。
ウィンズロウは、成長小説のように瑞々しい「ストリート・キッズ」をはじめとするニール・ケアリー・シリーズや、リアルでハードな「犬の力」シリーズなどで知られるミステリー作家。琴線に触れるストーリーテラーであり、読む者を惹きこむ筆力の持ち主。彼のイメージの世界をどのように映像化するのか、期待が募る。これまで『ボビーZ』と『野蛮なやつら』が映像化されてきたが、今ひとつ話題にならなかった。
あまり映像化には恵まれなかったウィンズロウ作品だが、本作は『ブリジット・ジョーンズの日記』シリーズや『ノッティングヒルの恋人』、意欲作『サブスタンス』などで知られる、イギリスのワーキング・タイトル・フィルムズが製作に乗り出し、監督にはテレビで実力を育み、ドキュメンタリーの『The Imposter』で注目された後、長編デビュー作『アメリカン・アニマルズ』が高い評価を受けた、英国出身のバート・レイトンが起用されている。
レイトンは自ら脚本を書き、製作も引き受けて世界を膨らました。そこにはアメリカ犯罪映画に魅せられてきた監督の思いがてんめんと込められている。スティーヴン・ソダーバーグの『アウト・オブ・サイト』やマイケル・マンの『ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー』、そして『ヒート』などにオマージュを捧げていることは疑いがない。
万全の注意を払って事件を繰り返す犯罪者と、事件の共通項を炙りだし追いすがる刑事のスリリングな攻防。そして犯罪者に関わる人間たちの行動がクールに紡ぎ出される。ロサンゼルスの風景のなかに、図らずも交錯することになった人間たちの姿が魅力的に浮かび上がる。レイトンのクライム・ドラマへの思いがくっきりと描き出される
しかも、キャスティングが凝っている。孤独な犯罪者デーヴィスには『マイティ・ソー』のクリス・ヘムズワース。ロサンゼルス警察の刑事ルーには『アベンジャーズ』のハルクや『哀れなるものたち』の怪演が嬉しいマーク・ラファロ。加えて保険会社の社員シャロン役には『チョコレート』でオスカーに輝いたハル・ベリー、傍若無人な犯罪者オーモンには『バード ここから羽ばたく』や『イニシェリン島の精霊』など躍進著しいバリー・コーガンが起用された。さらに犯罪者が心を寄せてしまう女性マヤには『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』でアカデミー助演女優賞にノミネートされたモニカ・バルバロが抜擢されている。この他にもベテラン、ニック・ノルティが狡猾な故買屋に扮するのだから文句がない。
カリフォルニアを貫くハイウェイ101で宝石強盗事件が多発していた。一切の痕跡を残さずに犯行が行われる。ロサンゼルス警察の刑事ルーは同一犯の犯行と確信していた。
犯人デーヴィスは厳しい規律を定めて、強盗を繰り返していたが、馴染みの故買屋がルールに従わなかったために、縁を切ろうとする。故買屋はオーモンを雇い、デーヴィスの手口で宝石商を襲った。
デーヴィスはマヤという女性と知り合ったおかげで、今までの生き方を変えようと思い立つ。最後の大仕事として保険会社で不遇を囲っていたシャロンを誘い、1100万ドルの宝石と現金を標的にした大仕事に乗り出す。
しかし、ルーはデーヴィスの過去を調べ上げ、事件を阻止すべく迫っていた――。
レイトンはデーヴィスの行動を細やかに綴りながら、ルーの人となりもきっちり押さえる。孤独で自分を律して生きてきた犯罪者が、初めて女性を好きになり、戸惑いながらも生き方を変えようとする。一方で、警察組織で浮いていても、自説を曲げずに犯人に肉薄する刑事。どちらも孤独でありながら、矜持を変えようとしない。ふたりが遭遇したとき、どんな化学変化が起きるか。レイトンは巧みな幕切れを用意してくれる。
『ヒート』をほうふつとさせる街並みの描写、男たちの矜持まで何とも好もしい仕上がり。寡黙な犯罪者役のヘムズワース、狡猾に人に取り入る刑事役のラファロ、ともにみごとに役にハマっている。不当に差別されている保険会社キャリアレディ役のハル・ベリーもさすがの貫禄だ。今が旬のバリー・コーガンはちょっと損な役回りながら個性を存分に発揮している。
みていて思わず笑みがこぼれるほど。クライム・ストーリー好きには応えられない、最後最後まで楽しめる作品である。