『ジョン・ウィック』は、キアヌ・リーブスがアクション・ヒーロー復活を果たした痛快クライムドラマ!

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『ジョン・ウィック』
10月16日(金)より、TOHOシネマズ新宿ほか全国ロードショー
配給:ポニーキャニオン
Motion Picture Artwork©2015 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved. ©David Lee
公式サイト:http://johnwick.jp/

 

 どうもキアヌ・リーブスはレッテルをはられるのが嫌いらしい。
 イメージの固定化が嫌なのか、せっかく『スピード』でアクション・スターとして名乗りを上げ、『マトリックス』3部作でその地位を不動のものにしたはずなのに、定番のアクション路線を走るのは潔しとせず、ファンタジーっぽい『コンスタンティン』やストイックな『フェイクシティ ある男のルール』、コミカルな『フェイク・クライム』まで、ひねりのあるアクションしか選ばない。その間にも『地球が静止する日』で宇宙人を演じるかと思えば、大甘なメロドラマ『イルマーレ』にも顔を出す。『恋愛適齢期』、『サムサッカー』や『50歳の恋愛白書』など、気に入れば脇役も厭わない。日本人には微妙な『47RONIN』に主演した後は、自らがメガフォンをとったカンフー映画『キアヌ・リーブス ファイティング・タイガー』では悪役を買って出た。まったく、この人のヴァラエティに富んだ作品選びには驚きを隠せない。
 そして、本作の登場である。ここではグラフィック・ノベル的世界でひたすらスタイリッシュなアクションを披露してみせる。ストーリーはシンプルにして、全編、リーブスの格好のいい殺陣で彩る趣向。最新の銃を手に、リーブス扮する主人公ジョン・ウィックが“ガン・フー”なる格闘術を繰り広げる。かつて2002年にカート・ウィマーが『リベリオン』でガンプレイに東洋武術の“型”を取り入れた“ガン・カタ”なるものを映像に焼き付けたが、“ガン・フー”はガンプレイとカンフーの融合。『マトリックス』以来、ユエン・ウーピンをはじめとする香港アクションの担い手たちと親交を結んだリーブスにはうってつけの格闘術といえる。
 脚本は『マキシマム・ブロウ』など、ハードなアクション一筋のデレク・コルスタッドが担当。しかも監督が、『マトリックス』でリーブスのスタント・ダブルを務め、『エクスペンダブルズ』をはじめ、多くの作品でスタント・コーディネーターを引き受けてきたチャド・スタエルズ。スタエルズにとって初めての監督作品で、プロデュースにも名を連ねるスタントマンデヴィッド・リーチがノンクレジットながら共同監督としてサポートしている。さらに撮影には『マックス・ペイン』や『ダイ・ハード/ラスト・デイ』などのアクション志向のジョナサン・セラを配し、スタントに携わる人たちが総結集した。あくまでもアクション、スタントで押し切ろうとの意思が顔ぶれからもうかがえる。
 リーブスを支える共演者は『プラトーン』の昔から『処刑人』まで、幅広い作品歴を誇るウィレム・デフォーに、『悪の法則』のジョン・レグイザモ。『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命(いのち)の泉』のイアン・マクシェーンや、スウェーデン版『ミレニアム』3部作や『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』などで知られるスウェーデンのミカエル・ニクヴィストまで、個性に溢れる俳優陣が脇を固めている。
 全米では批評家たちも好意的で、興行的にも数字を稼ぎ、早くも続編の製作も決定した。なにより惚れ惚れするようなリーブスが堪能できる。

 愛する女性を病で失ったジョン・ウィックは愛犬デイジーと静かな日々を送っていたが、愛車マスタングをロシアン・マフィアのボスの息子ヨセフが惚れこんだことから一転する。
 売れと強要するヨセフをやりすごしたウィックだったが、その晩、ウィックの自宅が襲撃される。ウィックは痛めつけられ、デイジーは撲殺され、車は奪われる。
 気がついたウィックは怒りに燃え、封印していた過去のやり方に戻る決心をする。同じ頃、ヨセフは父のヴィゴから叱責を受けていた。ウィックが暗殺者の暗殺を手がける最強の殺し屋であることを、ヴィゴは教え、息子のためにウィックに自制を求める電話をかける。だがウィックはヴィゴの申し出を拒絶する。
 ヴィゴは機先を制してウィックに襲撃をかけるが、襲撃者たちは殲滅させられる。ヴィゴはヨセフを匿い、ウィックに多額の賞金をかけたばかりか、ウィックの友人の殺し屋マーカスにも殺害を依頼する。
 ウィックは裏社会の人間が利用するホテル、コンチネンタルでヨセフの情報収集を行なっていた。このホテルでは戦わないという掟があったが、殺し屋はその掟すら破って襲いかかってくる。敵を撃退したウィックは、ヨセフを匿うクラブに乗り込んでいく――。

 ストーリーは明快で、いわば眠れる獅子を復活させてしまうというパターン。ニューヨークを背景に、ロシアン・マフィア相手に凄腕の殺し屋が暴れまくり、殺しまくる展開となる。どこか剣呑なイメージのニューヨークを背景に、どこまでもハードでスリリングな銃撃戦が本作の軸。リーブスが演じる華麗な殺陣が目に焼きつく。聞けば、リーブスはほとんどのスタントを自ら演じているのだとか。そのために特訓を駆使し、自らの肉体に俊敏性や柔軟性を培っていったという。
 まさしく、本作の眼目は凄まじいアクション・シーンを構築するかにある。リーブスをはじめ、スタエルスキ、リーチ、そしてスタッフひとりひとりに、アクションが優先の思いが貫かれているのだ。監督たちは、圧巻の殺陣とスタントの見せ場をきびきびとつなぐことに専念している。
 極端にいえば、ダークなヒーローがとことん敵を撃ち倒すのを楽しむ映画。そのために銃などのディテールには徹底的にこだわり、格闘術もリアル。まことスタント、殺陣の技術を謳歌する作品でもあるのだ。リーブスが本作に惹かれたのは、映画の魅力を支えるスタントマンたちの思いが込められていることにあるのだ。

 伝説の殺し屋なんて、どこかエキセントリックな匂いのするリーブスにはうってつけのキャラクター。ここでは身体のキレ、動きの速さで勝負している。加えて友人の殺し屋役のデフォー、故買屋役のレグイザモ。ホテルの経営者役のマクシェーン、そしてヴィゴに扮したニクヴィストまで、俳優たちも楽しんで役を演じている。クセモノ揃いのこのキャスティングは嬉しい限りだ。

 本作をみると、続編の登場が楽しみになる。画面を見つめていくうちに、アクション主導の姿勢に拍手を送りたくなる仕上がりだ。