もはやコミックのファンでなくとも認知されている諌山創が生み出したダークファンタジー、「進撃の巨人」の実写映画版の登場である。
なにせ原作は全世界累計発行部数5000万部を突破するなど爆発的人気を誇り、アニメーション化、小説化、本作と連動したドラマ化(dTVで8月に配信)、ゲーム化など、さまざまなメディアで攻勢がかけられている。原作はユニークな世界観のもと、巨人の食人など過激なシーンや激しいバトルなどが散りばめられている。コミックやアニメーションでは許容される描写を実写でどのように表現するのか、製作時から注目されていたが、『日本沈没』や『のぼうの城』などで知られる樋口真嗣監督と製作陣はきっちり原作に正面から向き合うスタンスをとった。
製作陣は、巨人による食人の恐怖、謎が随所に仕掛けられた奇妙な世界観、そして対巨人兵器・立体起動装置を駆使したバトル・アクションの3つの要素を軸に、ストーリーを構築していった。脚本を担当したのは『GANTZ』や『ジョーカー・ゲーム』を手がけた渡辺雄介と、切れ味鋭い映画評論で人気のある町山智浩のふたり。当初、原作とは全く違うストーリーにしてほしいとの要望も出たが、基本的に原作をベースにする方向性で進行することとなった。映画化にあたっては枝葉をはらい、シンプルな展開で貫く作戦。一気呵成の語り口で、インパクト強く走りぬいてみせる。
出演は『永遠の0』の三浦春馬に『ラブ&ピース』の長谷川博己、『ノルウェイの森』の水原希子、『ストレイヤーズ・クロニクル』の本郷奏多。さらに石原さとみ、ピエール瀧、国村隼などが顔を揃える。まことにヴァラエティに富んだ顔ぶれだ。
特撮監督を務めるのは『のぼうの城』の尾上克郎。特技監督の貌をもつ樋口真嗣とのコラボレーションよろしく、巨人の造形を筆頭に迫力に富んだ映像を披露している。
突如、現れた巨人たちに人類の大半が捕食され、文明は壊滅した世界。生き残った人類は高い壁を三重に築き上げ、巨人たちの侵攻を防いだ。それから100年、巨人たちの攻撃のないまま、人類は壁のなかで生活する日々を送っていた。
若者の多くは壁外の世界に夢を馳せていたが、巨人たちが突如、襲いかかってきた。壁はあっけなく崩され、巨人たちは逃げまどう人類を食い尽くさんと押し寄せてくる。若者のひとり、エレンは愛するミカサを失ってしまう。
それから2年後、活動領域を減らされた人類は対巨人兵器・立体起動装置で武装した調査団を結成し、外壁の修復に踏み切る。部隊に参加したエレンは立体起動装置を駆使する人類最強の男・シキシマ、そして意外な存在と出会う。
調査団の前に、巨人たちが立ち塞がる。エレンは仲間を庇ったために、巨人に呑みこまれてしまった――。
冒頭に描かれる世界の説明を簡単にすませてから、問答無用、巨人大襲来のシーンになだれ込んでいく。突然の出現に右往左往の人々がばりばりと食われていく。混乱し逃げまどう人々のモブシーンの迫力と嬉々として人間を口に入れる巨人たちの不気味さが、相乗効果となって映像に焼きつけられる。ぐいぐい迫るサスペンスにたちまち作品世界に引き込まれる仕掛けだ。
しかも後半はまさに戦争映画そのもの、緊迫したバトル・アクションが繰り広げられる。なかでも巨人たちに対抗すべく開発された設定の、空を駆ける立体起動装置のアクションは、香港映画などでおなじみのワイヤー・ワークを駆使して、スピーディかつ痛快味満点。樋口監督は、後半はひたすらバトル・アクションを貫き、とことん激しいクライマックスを用意した上で、9月公開の後編に興味をつなぐ。
あまりにもスピーディにストーリーが展開するため、本作で提起された謎は後篇で明らかにされるのか。ひょっとしたら、シリーズとなって続くのではないかとの思いも頭によぎってくる。いずれにせよ人間を捕食する巨人の恐怖をきっちり描き、空中バトルの醍醐味を満喫させてくれているのだから、後篇の登場を待つ以外にない。
世界文化遺産に登録された長崎県の軍艦島にロケーションを敢行し、本物の廃墟の存在感を際立たせる。特撮は、CG、巨人に扮した生身の人間とミニチュアの撮影、文楽のような数人で操演する超巨大キャラクターの撮影を融合させたVFXで勝負、リアリティのある恐怖、生理的恐怖を呼び起こす映像を生み出している。
出演者も、エレン役の三浦春馬、ミカサ役の水原希子、シキシマ役の長谷川博己、さらに本郷奏多をはじめ、いずれの俳優もこれまでに演じたことのないキャラクターにチャレンジしている。
後篇を目の当たりにして、初めて作品としての評価は定まるのだろうが、本作でスタートダッシュは決まった。個人的にはあまり2部作構成は好きではないのだが、『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』に関しては、後篇を楽しみに待ちたい。わずか1カ月後だからね。