『フューリー』は戦車の迫力を前面に押し出した、ブラッド・ピット主演のバトル・アクション大作!

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『フューリー』
11月28日(金)より、TOHOシネマズ日劇ほか全国超拡大ロードショー
配給:KADOKAWA
©Norman Licensing, LLC 2014
公式サイト:fury-movie.jp

 

 近年、戦争映画といわれて頭に浮かぶのが、ソマリア内戦のアメリカ軍事作戦の失敗を再現したリドリー・スコット作品『ブラックホーク・ダウン』や、イラク戦争時の爆発物処理班兵士の任務をジリジリするような緊張感で描いた、キャスリン・ビグローの『ハート・ロッカー』、さらに1998年のスティーヴン・スピルバーグ作品『プライベート・ライアン』といった作品群。いずれもエンターテインメントでありながら、戦場に放り込まれたような手に汗を握る臨場感とともに、きれいごとではない戦争、その愚かしさをくっきりと映像に焼き付けていた。
 ブラッド・ピットが製作総指揮と主演を務める本作も間違いなく同じ系譜に属する。第2次世界大戦末期のヨーロッパ戦線を背景に、アメリカ軍のシャーマン戦車“フューリー”号の戦いを描き、アメリカでもヒットを飾ったバトル・アクションだ。
 戦車が登場する映画としては、古くは1943年の『サハラ戦車隊』、1965年の『バルジ大作戦』、最近では。今年公開された2012年ロシア作品『ホワイトタイガー ナチス極秘戦車・宿命の砲火』などが挙がる(そういえば、往年のアクションスターが勢揃いした『エクスペンダブルズ3』にも戦車が登場していた)。そのなかにあっても、戦車のバトル・アクションという点で『フューリー』は突出している。
 この企画を立案し、脚本・監督・製作を引き受けたデヴィッド・エアーはディテールを重視して、兵器から兵士の髪型まで徹底的にリサーチ。3人の軍事アドバイザーと、大戦中に機甲師団に従軍した4人の退役軍人に依頼して、当時の状況をリアルに再現している。とりわけ、唯一稼働する、本物のドイツ軍ティガー戦車(イギリスのボービントン戦車博物館所蔵)を登場させたことは特筆に値する。
 第2次大戦末期、ドイツ軍は幼い少年も兵士となって戦い、連合軍兵士も連戦で疲弊しきっている。そうした状況のなかで、ブラッド・ピット扮する軍曹がフューリー号に配属された新兵に戦争の現実を叩き込むかたちでストーリーが進行していく。
 エアーは潜水艦の乗組員だった経歴の持ち主で、これまで脚本家として『トレーニングデイ』、『ワイルド・スピード』を生みだし、監督に転進して『フェイクシティ ある男のルール』や『エンド・オブ・ウォッチ』、『サボタージュ』といった作品を手がけてきた。警察官に焦点あて、危険と隣り合わせの職業に就く男たちの絆や葛藤を題材にしてきた彼が、ここでは戦争という極限状況下の男たちの姿を浮かび上がらせている。
 出演者もブラッド・ピットを軸に充実したキャスティングが組まれている。新兵に『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』のローガン・ラーマン。さらに『トランスフォーマー』シリーズや『インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国』のジョーンズの息子役でおなじみのシャイア・ラブーフ、『ワールド・トレード・センター』のマイケル・ペーニャ、テレビシリーズ「ウォーキング・デッド」で注目されたジョン・バーンサルなど、個性派が揃っている。

 第2次大戦末期の1945年4月、連合軍は捨て身のドイツ軍の攻撃に手を焼いていた。アメリカ軍所属のシャーマン戦車フューリー号に乗るコリアー軍曹は、砲手のバイブル、操縦手のゴルド、装填手のクーンアスという優秀な部下に恵まれて、数々の戦場を体験してきたが、副操縦士が戦死する。
 後釜にフューリーに配属されたのは戦闘経験の全くない新兵ノーマン。戦場の凄惨さに息をのみ、少年兵を射殺することもできないノーマンに対して、コリアーは命乞いをする捕虜を射殺するように命じるなど、戦争の厳しさを叩き込んでいく。
 制圧した村でノーマンはドイツ少女とつかの間の交流をするが、戦火がかんたんに仲を引き裂いてしまう。この出来事でノーマンの心に戦争の現実がくっきりと焼き付けられる。
 フューリー号は命令によってドイツ軍の最強兵器ティガー戦車と死闘を演じ、さらに敵精鋭部隊300人をたった1台で迎え撃つことになる――。

 無垢な新兵が古参兵によって戦争の厳しさを叩き込まれて戦士に成長していくという、ストーリー的には古典的な仕立てを守り、戦争の地獄を浮き彫りにする。戦場には善悪はなく死者と生者しかいない。戦うことの空しさを訴えながらもバトル・アクションの醍醐味を満喫させるのだから大したものだ。エアーの演出は巧みという他はない。
 おそらくは潜水艦体験を活かしたのだろう、戦車の閉塞感もふくめ、戦闘の迫真力は群を抜いている。とりわけ1台のティガー戦車対3台のシャーマン戦争の息詰まるバトル、300人の兵士を相手に死力を尽くすクライマックスは、見る者を熱くさせる。まこと、戦争映画の魅力をすべて備えている作品なのだ。

 出演者はエアーの要望のもとで、実践的な訓練に参加。兵士らしい雰囲気を身につけるとともに、チームワークを強めて撮影に向かったという。コリアー軍曹役のピットを筆頭に、バイブル役のラブーフ、ゴルド役のペーニャ、クーンアス役のバーンサルは、この特訓で古参兵の逞しさと歴戦の疲れをにじませることに成功している。
 ピットは、人間的な優しさを内包しながら、心を鬼にして戦場の非人間性を叩き込もとするキャラクターをみごとに表現すれば、ノーマン役のラーマンは非情な戦場に適応していくプロセスを熱演してみせる。いずれも男同士の友情、チームワークの素晴らしさを焼き付けている。

 戦争映画、バトル・アクションの魅力的な要素と戦争の悲惨さを融合させたエンターテインメント。これは戦争映画ファンならずとも一見に値する。