『イコライザー』は悪をクールに抹殺する、孤高のヒーローを描いた痛快至極のアクション快作!

1201213 - The Equalizer
『イコライザー』
10月25日(土)より新宿ピカデリー、丸の内ピカデリー他全国ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト:http://www.equalizer.jp/

 

 往年の人気テレビシリーズを映画化するパターンは、認知度を重んじるアメリカ映画界ではさして珍しいことではない。逆に映画化したい作品がよく残っていたといいたくなるほど、これまで数多くの作品が登場している。それぞれ映画化したくなるだけの根強い人気があり、ユニークな設定、世界観を誇っていたわけだが、成功の可否はいかに現代に適応させたか。そこを練りこんでいるかどうかが肝要となる。
 本作は、1985年から1989年にかけてアメリカで放映されて人気を博した同名シリーズをもとにしている(日本では「ザ・シークレット・ハンター」という題名で1990年代に紹介されて以来、地方局でたびたび放映されているという)。
 オリジナルでは元CIAエージェントのロバート・マッコールが主人公で、助けが必要な人に向けて広告を出し、毎回、さまざまなトラブルを解決する展開。当時の社会的な問題をはらんだ事件が登場する仕組みだった。
 いわば無援の庶民のお助け人的なイメージだが、映画版はマッコールのイメージにいっそうの凄味を加えている。脚色にあたったのは『16ブロック』や『メカニック』など手がけたリチャード・ウェンク。主人公の過去に踏み込みつつ、ストーリーをテレビシリーズで確立された設定の前日譚に仕上げた。彼がいかにトラブルシューターとなったかが説得力を持って描かれる。なによりも舞台をオリジナルのニューヨークからボストンにしていることも新味となった。
 この脚本をもとに、きびきびしたアクションに仕立てたのはアントワーン・フークア。チョウ・ユンファのハリウッド進出作『リプレイスメント・キラー』をスタイリッシュに決め、『トレイニング デイ』ではデンゼル・ワシントンのイメージを一変させる“汚れた警官”を演じさせて、ワシントンをアカデミー主演男優賞に導いた。ミュージックヴィデオやCFで映像センスを磨き、アクションでは街角のハードな雰囲気を取り込むのが得意とあって、本作にはうってつけだ。
 しかも、マッコール役をデンゼル・ワシントンが演じるのだから応えられない。2度のアカデミー賞に輝いた彼がこうしたアクションヒーローに挑んだことも特筆に値するが、プロデュースにまで名を連ねているのだから、いかにこの題材を気に入っているかが分かる。
 共演は、感涙ドラマ『イフ・アイ・ステイ 愛が還る場所』が記憶に新しいクロエ・グレース・モレッツ。さらにニュージーランド出身、『リンカーン/秘密の書』のマートン・ソーカスがキレキレの演技をみせてくれる。
 殺気が際立ち、たちどころに敵を倒すヒーロー。ワシントンのハードボイルドな表情もみものである。

 ロバート・マッコールはボストン郊外のアパートにひとりで暮らしている。質素で規則正しい生活を貫く彼はホームセンターで働いている。同僚とは愛想よく、しかし一線を引いて接し、仕事が終わるとアパートに帰りひとりで夕食。眠れぬ夜には読書するため、24時間営業のダイナーに向かう。
 なじみになったのは少女娼婦のテリー。どぎついメイクの下にあどけなさと聡明さを宿している。いつしかことばを交わすようになったが、まもなく乱暴な客から逃げ出した彼女が瀕死の重傷を負う。
 犯人は彼女を使っているロシアンマフィアだった。マッコールは昏睡状態のテリーをみて、家からなけなしの9800ドルをもって、ロシアンマフィアのアジトのロシア料理店に彼女の身受けに赴く。
 ロシアンマフィアの連中はマッコールを嘲笑い、帰るように促す。その態度に、マッコールはクールに「19秒」とつぶやく。その直後、彼は部屋にいる5人の男たちを、調度品を武器にして抹殺していく。その時間、わずかに19秒。
 この行動が彼のなかの何かに火をつけたようだった。同僚の母親が営むレストランを脅迫する悪徳警官を秘密裏に脅迫し返し、みかじめ料を返還させる行動に出たのだ。だが表面はホームセンターの一員として穏やかな日々を過ごしていた。
 しかし、ロシアンマフィアが黙っていなかった。総元締めのプーシキンは切れ者の手下テディをボストンに送り込み、犯人探しに乗り出す。現場には証拠はなかった。ただ監視カメラにマッコールの写真が映っていた。テディは悪徳警官を顎で使いながらマッコールに近づく。テディは元KGBのサディスト、マッコールを一目見て、只者ではないことを察知する。かくして、ロシアンマフィアに対するマッコールの壮絶な戦いがはじまった――。

 穏やかな日々を規則正しく生きるマッコールの姿を前半できっちり見せておいて、ロシアンマフィアを瞬殺するシーンで“闇のヒーロー”としての資質を全開させる。あっという間もなく、手近な物を使って相手を倒す技術に唖然とさせられてしまう。フークアの演出は、メリハリを利かせながら、ダイナミックかつサスペンスたっぷりにマッコールのスキルを披露。見る者を痛快な気分に誘ってくれる。
 マッコールがホームセンターで働く設定にしたのも、何でも凶器にしうるマッコールのスキルを考えると、なるほどと感心させられる。クライマックスのホームセンターでの壮絶な戦いは、まさにこのための設定にしたと思わせるほど、売り場に並ぶ商品を巧みに使っている。
 なにより敵が極悪非道なロシアンマフィアということで、安心して“毒には毒を”で押し通せる。どこまでも陰湿で執念深いギャングたちを叩き潰す。マッコールのヒロイズムが際立つ仕掛けだ。最後に、マッコールが新聞広告を思いつくところで幕がひかれるが、これは続編への目配せだろうか。前作『エンド・オブ・ホワイトハウス』ではひたすら派手なアクションとスタントに終始したフークアだが、ここでは孤高のヒロイズムをボストンの街角のリアルな雰囲気のなかに浮かび上がらせる。ハードボイルドでスタイリッシュ、フークアの個性がひさしぶりに発揮された作品となっている。

 出演者では、何といってもワシントンがすばらしい。ホームセンターで人のよさそうな態度を取りながら、決して油断していないあたりもいいが、表情をまったく変えずに人を殺す凄味は圧巻。これだけ演技力のある人間がこうしたヒーローを演じるとキャラクターの存在感が半端なくなる。『2ガンズ』に続いて理屈抜きのエンターテインメントに出演したのは、演技派と祭り上げられることで終わりたくないとの心境だろうか。プロデュースも引き受けたことも、これでヒットを飛ばしたいとの思いもあるはずだ。
 共演のモレッツは、今回、健気な少女娼婦というキャラクターをさらりと表現している程度だが、テディ役のソーカスの怪演は見るべきものがある。サディスティックな匂いを漂わせつつ、敵をいたぶるハイテンションな悪党。成敗されるに十分な存在ではある。

 理屈抜きの現代アメリカ版“仕事人”。ワシントンの個性とフークアのクールな語り口が映像に漲る。これは一見に値する仕上がりだ。