『祝宴!シェフ』はおいしそうな料理の数々に目を見張る、ギャグ満載の台湾製エンターテインメント!

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『祝宴!シェフ』
11月1日(土)より、シネマート新宿、ヒューマントラスト有楽町ほか全国ロードショー
配給:クロックワークス
©2013 1 PRODUCTION FILM COMPANY. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:http://shukuen-chef.com/

 

 ホウ・シャオシェンやエドワード・ヤンが匠として既に世界的に認知され、ツァイ・ミンリャンやアン・リーが活躍をはじめた19年前の台湾映画界にあって、チェン・ユーシュンは『熱帯魚』というコメディで劇映画監督デビューを果たした。
「ホウ・シャオシェンをはじめとする台湾ニュー・ウェーヴ世代の作品が世界的に評価されたおかげで追従する人たちが増えて、台湾映画はアート志向の作品が増えてしまった。ぼくは、台湾人のひょうきんでおしゃべり好き、活発な部分を映像にしたかった。身近に感じられる人々を題材にした、軽快でコミカルな作品をつくりたいと思いました」
『熱帯魚』を引っ提げて来日した時のユーシュンのコメントである。『熱帯魚』は誘拐事件に巻き込まれた少年と犯人たちの顛末をリアルかつユーモラスに描き出し、各国で高い評価を受けたばかりか興行的にも成功を収めた。そのことも影響しているのか、インタビュー時の彼は力強く、意欲に満ちていた。テレビの製作会社から映画に進出し、続いて1997年に『ラブゴーゴー』を発表。この作品も日本では一部で話題になり、ユーシュンの次作が待たれたが、ここから長期間にわたる休眠状態に入ってしまう。
 そして、今年、本作が突然に公開されることになった(昨年の東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門“台湾電影ルネッサンス2013”で『総舗師 ― メインシェフへの道』という題名で上映されている)。
 休眠期間の間、ユーシュンは映画界から離れ、CM製作に活路を見いだしていたという。映画の製作費を調達できないこと、自信の持てる脚本を生み出せなかったことが理由らしいが、16年ものんびり離れていたことに驚く。
 それだけに満を持しての長編映画監督再登場となった。料理を題材にした作品を撮りたいという思いのもと、料理のおいしさが感じられるテンポのいい映像とギャグ満載、活きのいいコメディに仕上げている。
 なによりも庶民的な“トマトの卵炒め”や“焼きビーフン”からはじまって“菊花貝柱蒸し”や“布袋鶏”など、次々と料理が披露される楽しさ。キャッチコピーの「笑って・泣いて・お腹が空く!前人未到で空前絶後な“おもてなし”エンターテインメント!」は、幾分オーバーであるにせよ、気持ちは大いに分かるのだ。

 ヒロインは台北で売れないモデルを続けるシャオワン。興味はファッションとメイクだけの女の子で、父親は、今は亡き伝説の宴席料理人(総舗師)であるにもかかわらず、料理に何の興味もない。
 ある日、強面の二人組がアパートを訪れ、恋人の莫大な借金を払えと迫る。返済の当てがない彼女は夜逃げをするしかない。呆然と街に座りこむ彼女の紙袋を、ひとりのホームレスが奪う。そこには父親のレシピノートも入っていた。
 帰る先は実家しかない。とぼとぼ戻ると、なんと実家は差し押さえにあっていた。
 継母のパフィーは夜逃げをして食堂を開いていたが、料理の才能がなく、店はガラガラ。転がり込んだシャオワンと途方に暮れる。さらに高齢のカップルがやってきて、若い頃に味わった父の思い出の料理を食べなければ結婚できないと頼みこむ。
 安請け合いをしたシャオワンだったが、料理のことは何も考えていない。数少ない常連のどんな料理でも教えてくれる“料理ドクター”がいると聞き、来てもらうと、彼は列車で出会った男だった。
 料理ドクターの助けもあり、さらに父の師匠のお世話係ローズマリーが仲間となり、ビーフンの達人であったことから、なぜかシャオワンとパフィーは全国宴席料理大会に出場することになってしまう。
 シャオワンと料理ドクターは惹かれあっていたが、ふとしたことで気まずくなり、料理ドクターは彼の師匠のいいつけで、シャオワンたちと対抗するチームを手伝うことになる。
 シャオワンは彼女を追い掛けてきた借金取りを仲間に引き込み、売れないアイドルの彼女を崇拝するおたくたちの協力のもと、台北での大会に臨む。そこでホームレスに再会したシャオワンは、彼の意外な正体を知り、“料理で人を幸せにする”思いを胸に敢然と大会に挑んでいく――。

 クライマックスに宴席料理大会を置く展開ながら、料理を究める求道的な要素は一切ない。描かれるのは、そんなに賢くない、どこにでもいそうなギャルが飛躍的にではなく、ほんの少しだけ成長する姿。自分の進むべき方向が掴めずに、うろうろしている人間が出来事や事件によって、少しだけ先が見えてくる。考えてみれば、こういう展開はユーシュン作品に共通している。
 身近に感じられる人々を主人公にする点でも、本作も例外ではない。モデル崩れのギャル、料理ベタの料理名人未亡人、おたく、借金取りなど、どこにでもいそうな半端者だ。そうした存在が力をあわせて大会に挑み、旋風を巻き起こす。定番といわれても、ここに娯楽映画としての王道がある。
 ユーシュンはCMで培った、リズム感を押し出しつつ、ギャグをてんこ盛りにする。ちょいと玉石混合のきらいはあるが、とにかく勢いで勝負。痛快にして爽やかな味わいの幕切れを用意することで押し切ってしまう。以前の作品よりもネタを詰め込み気味なのはCM体験のなせる業か。
 嬉しいのは料理が魅力的なことだ。かつてアン・リーが『恋人たちの食卓』で料理のおいしさを耳でも堪能させてくれたが、ユーシュンは料理の過程を追うこともさることながら、おいしい料理は育った家庭の味だと喝破する。意匠を凝らした宴席料理のなかに、あえて“トマトの卵炒め”を登場させたのはその表れだ。この料理は台湾の殆どの家庭でつくるほどポピュラーなものだとか。映像をみていると、トマトの酸味と玉子のうまみが舌に感じられるようだ。

 出演者は、馴染みはないが、いずれもキャラクターにマッチしている。シャオワンには中学生美少女コンテストに優勝してショウビジネスに入り、ドラマ、CM、人気料理番組のMCなどを務め、これが映画2作目のキミ・シア。明るさと可愛らしさが身上で、役柄にぴったりとはまっている。
 加えて、料理ドクターには『台北に舞う雪』のトニー・ヤン、パフィーにはユーシュンがCMで起用して人気を得て、今や台湾トップのコメディエンヌと呼ばれるリン・メイシウ。さらに『恋恋風塵』や『悲情城市』などで知られ、エドワード・ヤンの『ヤンヤン 夏の想い出』では出演もしていた、名脚本家ウー・ニェンツェンがホームレスに扮して、いい味を付加している。いずれの演者も作品の進行とともに違和感がなくなり、しっくりと役に溶け込んでくる感じと表現すればいいか。

 見終わった後に、“トマトの卵炒め”が食べたくなる。食欲を刺激する楽しいエンターテインメントといいたい。