『ヘラクレス』は最強のヒーローに新しいイメージを付加した、パワフルなアクション快作!

HERCULES
『ヘラクレス』
10月24日(金)より、3D/2D&IMAX3D全国ロードショー
配給:パラマウント ピクチャーズ ジャパン
© 2014 Paramount Pictures and Metro-Goldwyn-Mayer Pictures. All Rights Reserved.
公式サイト:http://www.hercules-movie.jp/.

 

 アメリカ映画界で活動するアクション・スターのなかで、本物の肉体派、見るからに強そうなのは“ザ・ロック”こと、ドウェイン・ジョンソンだろう。
プロレスラーとして“ザ・ロック”の名でWWEのリングに上がり、世界ヘビー級の王座に就くこと8度。祖父、父ともレスラーという家系のもと、凄まじい人気を誇った。
 映画は『ハムナプトラ2/黄金のピラミッド』にスコーピオン・キング役で鮮烈な印象を残し、続くスピンオフ作品『スコーピオン・キング』に主演して、アクション・スターとしての地位を築いた。
 彼の賢いところは、鍛え上げた鋼の肉体を売りにするアクションに出演するだけではなく、『Be Cool/ビー・クール』をはじめ、コミカルな役にも積極的にチャレンジしたところだ。アクション、コメディ、ファミリー・ピクチャーと地歩を広げ、『G.I.ジョー バック2リベンジ』や『ワイルド・スピード MEGA MAX』、『ワイルド・スピード EURO MISSION』などのヒット作でも個性を発揮している。

 そんなジョンソンが満を持してスーパーヒーロー・キャラクターに挑んだのが本作である。ヘラクレスはギリシア神話の最強の英雄にして、全知全能の主神ゼウスの子。これまでにも映画やアニメーション、コミックなどでおなじみの存在である。
 もっとも、本作のヘラクレスのキャラクターはこれまでのイメージとは異なる。イギリスのコミック作家スティーヴ・ムーアのグラフィック・ノベルに根差して、もっと人間臭いキャラクターとして描かれる。
 ここに登場するヘラクレスは、妻子を殺したと噂され、“最強の半神”というイメージを引っ提げて各地を流れる傭兵軍団の長だ。過去の忌まわしい出来事に苦しみ、自分自身に向き合っていないキャラクター。彼が大きな試練を乗り越えて真のヒーローになるまでが壮大なスケールで描かれていく。
 監督のブレット・ラトナーは、ジャッキー・チェンをハリウッドに定着させた『ラッシュアワー』シリーズや、ハンニバル・レクター博士シリーズの『レッド・ドラゴン』、はたまたマーヴェル・コミック映像化の『X-MEN:ファイナル ディシジョン』まで、どんな題材も巧みに理屈抜きのエンターテインメントに仕上げる匠。本作ではあえて特撮を最小限度に抑え、人馬一体の合戦を人海戦術、一大モブシーンで再現するなど、とことんリアルな肌合いを重視している。
 しかも共演が多彩だ。『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命(いのち)の泉』のイアン・マクシェーン、『リンカーン/秘密の書』のルーファス・シーウェル。さらにノルウェー出身で『ヘッドハンター』で注目されたアクセル・へニーに同じくノルウェー出身のイングリッド・ボルゾ・ベルタル、『紀元前1万年』のリース・リッチーが居並ぶ。
 これに『エレファント・マン』の名優ジョン・ハート、『マイ・ネーム・イズ・ジョー』のピーター・ミュラン、『恋におちたシェイクスピア』のジョセフ・ファインズが加わり、クリスティアーノ・ロナウドの恋人としても知られるスーパーモデルのイリーナ・シェイク、同じくスーパーモデルバーバラ・パルヴィン、『ミッション:インポッシブル』シリーズ最新作の出演が決まったスウェーデン出身のレベッカ・ファーガソンなど、美女たちも充実している。

 ヘラクレスは、預言者、戦略家、戦士、弓の達人、語り部という5人のエキスパートとともに、傭兵としてギリシアを旅していた。最強の半神のイメージを巧みに使い、仲間たちのスキルを活かして集団で活動。カリスマのあるリーダーとしてチームを率いていた。
 トラキア王の娘ユージニアから王に加勢して反乱軍を倒すように頼まれる。高額な謝礼を提示されて引き受けたヘラクレスと仲間たちは百戦錬磨。反乱軍との合戦でも並はずれた戦略で勝利する。その渦中にあっても、ヘラクレスはひとりになると過去のトラウマで苦しんでいた。
 トラキアには平和が戻ったはずだったが、予期しない結末が待ち受けていた。彼は過去に向き合い、真の英雄としての生き方を取り戻すか否かの選択を迫られることになる――。

 神話のヒーローにありがちな奇想天外な強さはクライマックスまで封印しておいて、もっぱら合戦映画の面白さ、迫力で押し切ったラトナーになにより拍手を送りたくなる。大軍と大軍が肉弾相討つ戦いはやはり胸が躍るし、ジョンソンの鋼の肉体によく似合う。ラトナーは常に“観客が見たいものを提供する”ことを旨としているが、ここではCG映像の奇想天外さよりも肉弾戦の生々しさであえて勝負している。同様の作品と一線を画したいとの表れだ。
 見ていてわくわくするのは、エキスパートが団結しそれぞれが能力を発揮するところ。ストーリー的には堕ちたヒーローの復権ということになるが、チーム映画としての楽しさを兼ね備えている。クセのある俳優たちを選りすぐったのはここに起因する。ラトナーはあくまでジョンソンの個性を軸に置きつつも、ヨーロッパの俳優たちの持ち味をいかんなく発揮させている。
 もちろん、ラトナーはアクション・シーンのツボを外さない。ジャッキー・チェンとの仕事で、肉体を駆使したスタント、アクションが感動を呼ぶことを知りぬいている。ジョンソンの鍛えあげた肉体を駆使したアクションのダイナミズムをきっちりと画面に焼き付けている。

 魅力はやはりジョンソンの圧倒的な存在感ということになる。この役のためにさらに肉体をシェープアップしたというが、なるほど画面に漲っている。一方で、トラウマに苦しむ人間臭い演技も披露し、俳優としても円熟してきた。リングに戻ることもあるようだが、俳優としての今後が楽しみだ。

 サービス満点、理屈抜きのスペクタクル・アドベンチャー。同じ主人公の作品が直前に封切られた不幸はあるが、楽しめる一編。注目に値する。