『イフ・アイ・ステイ 愛が還る場所』は、17歳少女の生死の選択を描いたベストセラー小説の映画化。好編だ。

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『イフ・アイ・ステイ 愛が還る場所』
10月11日(土)より、新宿バルト9、梅田ブルク7ほか全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
©2014 Warner Bros. Ent. and Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights Reserved.
公式サイト:http://www.ifistay.jp

 映画界が題材の認知度を重視することはアメリカも日本も変わらない。コミックやベストセラー小説の映画化が盛んに行なわれるのはここに起因しているが、近年、とりわけアメリカ映画界ではヤング・アダルト小説の映画化が観客を集めている。
 そもそも“ヤング・アダルト”とは12歳から19歳あたりまでの年代を指すことばで、ヤング・アダルト小説は児童文学と文学の間に位置する小説のことらしい。あの『ハリー・ポッター』シリーズもその範疇に入り、『トワイライト』シリーズ、『ハンガー・ゲーム』に『ダイバージェント』などもすでに映画化されている。ティーンが熱狂した題材は映画でも成功するというセオリーが浸透しているようだ。
 本作はゲイル・フォアマンが書いたヤング・アダルト小説「ミアの選択」を原作にしている。原作は2009年に発表されてベストセラーになり世界34カ国に翻訳されている。ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラー・ランキングに2014年なってもランキングされるなど読者から熱烈に支持されている。
 原作は家族とともに交通事故に遭遇してしまった少女、ミアが昏睡状態のなかで自ら生死の選択を迫られるストーリー。仲のいい家族のいなくなった過酷な状況のなかで、孤児として乗り越えるべきか、それとも輝く光の方向に進むべきか。幽体離脱をしたミアの素直な魂が思い出に身を浸し、喜びや悲しみ、愛と葛藤のなかで選択をする展開となる。
 脚本は『ローラーガールズ・ダイアリー』の原作者であり、脚本も手がけたショーナ・クロス。2012年に群像コメディ『恋愛だけじゃダメかしら?』の脚本も担当した彼女だが、ここではあくまで原作に忠実であることを心がけ、多少の変更はあるものの、エッセンスを脚本に十全に織り込んでみせる。脚本にはクロス自身の持つ明断な展開と原作の情感がみごとに融合している。
 監督は2009年の『ファッションが教えてくれること』をはじめとするドキュメンタリー、テレビドラマ、舞台で活動してきたR・J・カトラー。これが長編劇映画デビューとなるが、誠実な語り口を貫きつつ、ひとつひとつのエピソードを繊細に浮かび上がらせている。素直な演出ぶりが好もしい限り。
 なによりの魅力は、ヒロインのミナを演じるクロエ・グレース・モレッツにある。『キック・アス』で注目され、『モールス』、『ヒューゴの不思議な発明』、『ダーク・シャドウ』を経て、『キャリー』で主役を演じて成長ぶりを実感させてくれた。1997年生まれだから、ここでのヒロインと同年齢ということもあって、少女の心の揺れを切なく演じ切り、等身大の魅力を披露してくれる。ティーンの輝きに溢れた容姿の美しさとあいまって、現時点において彼女の代表作といいたくなる。

 ポートランドに住むミアは17歳。親友のキムがいて、バンドをやっているアダムと付き合って1年になる。チェロをこよなく愛し、ジュリアード音楽院からの合否通知を待っているところだ。
 今は教師をしている父はパンクバンドの元ドラマー、母はそのバンドのグルーピーだった。そのせいか、弟はパンク・ロックに夢中。彼女にとってはウザくもある家族だが、仲はいたって良い。
 ある日、家族に半ば強引にドライブに連れ出された彼女を待ち受けていたのは忌まわしい事故だった。対向車が雪でスリップして突っ込んできたのだ。
 気がつくと彼女は、昏睡状態の自分を見つめていた。幽体離脱したミアは家族の死を知り、失って初めて貴重だった家族の存在を思い知る。
 湧き上がってくるさまざまな家族とのエピソード、アダムとの軌跡、音楽への思い。家族全員がいなくなってしまった今、現実に待ち受けているのは過酷な現実でしかない。
 昏睡状態にあるミアのそばに祖父母がよりそい、家族以外は入れない集中治療室にアダムは無理やり入ろうとする。
 こうした情景をみつめるミアは、生きるか、死ぬかの選択を自ら下さねばならない――。

 家族は失くしてから、その有難味を痛感するのが世の習い。ヒロインの両親や弟に対する気持ちが画面に横溢し、みていて涙を禁じえない。ここに登場する人間がいずれも心優しく、善良な性格の持ち主ばかりというのも琴線に触れる。
 過去のエピソードと、昏睡状態にあるヒロインに右往左往する親族、友人たちの姿を映像でつなぎ、情の波状攻撃をしかけながら、ヒロインの選択でストーリーを引っ張っていく。カトラーの演出はドラマチックなケレンを排し、エピソードそれぞれに横溢する感情をすくい上げている。必然的に、映画自体にスケールの大きさはないが、じっくりと心に沁みる仕上がりとなった。
 魅力的なのは、映像に寄り添う音楽だ。ベートーベンやゴダーイ・ゾルターン、バッハの生み出したチェロの旋律から、バズコックス、ベック、ソニック・ユースなど、バラエティに富んだ曲が散りばめられている。両親、弟の好きなロック、ミアの愛するクラシック、さらに監督のカトラーは、恋人アダムが劇中で結成したバンド、ウィラメット・ストーンのために新曲5曲を用意するこだわりぶり。この5曲が素直で曲調でなかなかの仕上がりである。

 もちろん、見どころは殆ど、全編出ずっぱりのヒロインを演じたモレッツにある。過酷な試練に打ちひしがれ、苦しみ、過去に思いを馳せて成長するヒロインを存在感たっぷりに表現してくれる。親しみやすいベイビーフェイスのモレッツが涙にくれるとき、思わずこちらの胸も熱くなる。続く『イコライザー』ではロシア系の少女娼婦を演じるなど、さらに芸域を広げている感もあるが、この素直なヒロインは素敵だ。
 共演は、ママ役に『ワールド・ウォーZ』のミレイユ・イーノズ、パパ役に『ランナウェイ・ブルース』のジョシュア・レナード。祖父役で1971年の『ドク・ホリディ』で主役を務めたステイシー・キーチがキャスティングされたほか、恋人アダム役にはイギリス出身で『U Want Me 2 Kill Him/ユー・ウォント・ミー・トゥ・キル・ヒム』にも主演したジェイミー・ブラックリーが起用されている。演技ばかりか歌える存在として、今後、注目したい。

 結末は予期できるものの、ストーリーの展開とともに涙は必至。人のあはれ、生きていることのはかなさや切なさをにじませながら、希望のある結末が待ち受けている。秋にふさわしい作品だ。