『ナースコール』は看護師の一日の活動をスリリングに描いた、緊迫感に満ちたヒューマンドラマ。

『ナースコール』
3月6日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開
配給:スターキャットアルバトロス・フィルム 
© 2025 Zodiac Pictures Ltd / MMC Zodiac GmbH
公式サイト:https://nursecall-movie.com/

 日本では少子高齢化の影響で、医療・福祉の分野における慢性的な人材不足が叫ばれている。看護と介護には実質的に従事者の数が必要で、今後日本ではさらなる危機的状況に陥るといわれている。

 ただこれは日本に限ったことではない。社会インフラが整った医療先進国のイメージの強いスイスにおいても同様の人材不足が指摘されている。2040年までには看護師が4万人不足するのだという。年間100万人以上が入院治療、470万人以上が外来治療を受ける状況のなかで、差し迫った専門医療員の増加が求められている。

 本作はそうした医療危機の状況をストレートに紡ぎ出している。ヨーロッパのなかでも豊かといわれるスイスにあっても、看護員不足は慢性的で、看護師たちの懸命に現状を維持するしかない姿が畳みかけるように描かれる。

 ベテランの看護師フロリアの一日の仕事に密着し映像化するスタイル。人手不足が常態化する勤務のなかで、この日は3人勤務のうち、ひとりが病気で欠勤。26人の入院患者を看護しながら、インターンのサポートをしなければならない。誠実でプロ意識の高いフロリアはてきぱきと業務をこなしていく。

 ヨーロッパに属するスイスはさまざまな言語が飛び交い、多様なルーツが入り混じる多民賊国家でもある。さまざまな病を抱えた患者たちも例外ではない。看護師は必然的に患者の言葉を察知し、対処しなければならない。インバウンド景気で浮かれる日本も他人事ではない状況が本作ではストレートに描かれる。

 脚本・監督を務めるペトラ・フォルペはスイス国内のみならず、ベルリンとニューヨークにも拠点を置く存在で、多民族状況を抱える世界に対して強い問題意識を持っていた。このテーマをストレートかつエンターテインメントとして描くために本作をつくり上げたという。綿密なリサーチを施してから、ひとりの看護師の視点から問題を浮き彫りにする手法を取った。

 きびきびした語り口で看護師の作業を捉え、一方で自分の言い分をまくしたてる多様な患者たちを浮かび上がらせる。病を前にすると、文化、習俗の違い、言葉の問題が次々と看護師の前に立ちふさがる展開となる。それほど大きく知られていなかったが、スイスもアフリカ、アジアから多くの民族が押し寄せている現実が患者たちの出自を通して明らかになる仕掛けだ。

 出演はドイツ出身、英国で演劇を学び、ミヒャエル・ハネケの『白いリボン』で国際的に認知され、『セプテンバー5』にも顔を出したレオニー・ベネシュ。彼女を囲んで、ソニア・リーゼン、セルマ・ジャマールアルディーンをはじめとする女優たち。さらに26人の患者たちは演劇人、素人も織り交ぜて、一種、何をしでかすか分からない緊迫感をもたらすことに成功している。

 フォルペはリアルなタッチでフロリアの仕事ぶりを記録していく。ふたりで入院患者を世話するプレッシャーに苛まれながらも、プロとしての意識で業務を行なっていくが、患者たちは彼女を疲れさせる。飼い犬の行く末を案じる大腸がんの老人、腹痛のブルキナファソの男、意識レベルの低下した患者の付き添いは自分の健康を顧みない。そして傲慢なだけの患者まで、さまざまな要件がジャブのようにフロリアの疲労として蓄積し、彼女の注意を阻害する。

 そして彼女は致命的なミスを犯す。彼女は懸命に失敗を修正しようとする。果たしてミスをただすことはできるのか――。

 フォルペの演出はクールに進行していくが、決して非情ではない。ヒロインはプロに徹していながらも、温もりをもって患者に接している。その姿勢をみせられていくうちに、次第にヒロインの側に立ち応援したくなる。素直なフォルペの姿勢に好感を覚えざるを得なくなる。

 スリリングであってもラストは決して悲劇的ではない。スイスの興行で4週連続で1位を記録した実績を誇り、世界の映画祭で絶賛された逸品。派手ではないが、注目してほしい作品である。