近年、さまざまな工夫を凝らした日本映画がいくつも発表されるようになり、なかには舌足らずな作品も少なくないが、多彩なジャンルが映像化されるようになったのは事実。刺激的な題材でも次々とチャレンジされている。

　本作は2023年度のミステリー小説ランキングで1位を飾った同名ベストセラーの映画化である。連続爆破事件を題材に、聴取される謎の男と証言を引き出そうとする警察官の攻防をこの上なくスリリングに浮かび上がらせる。時間刻みのサスペンスと爆破事件のスペクタルが交錯して、見る者を画面にくぎ付けにする。近来まれにみる迫力と面白さを誇るミステリーの登場だ。

　原作の面白さを映像すべく脚本にはテレビドラマ「VIVANT」の八津弘幸と『サイレント・トーキョー』の山浦雅大を配し、監督には『恋は雨上がりのように』や『キャラクター』などで知られる永井聡が担当している。取調室の中年男と警視庁捜査一課の刑事たちの予断を許さない丁々発止のせめぎあい、その一方で東京のあちこちで爆弾を探す警官たちの行動を描き出す。煮詰まっていきながらも、懸命に捜査する警官たちの姿がキビキビと活写される仕掛けだ。

　なによりの魅力はキャスティングにある。『木の上の軍隊』や『ベートーヴェン捏造』など、近年、心境著しい山田裕貴を主人公に据えて、伊藤沙莉、染谷将太、坂東龍汰、寛一郎などの若手演技派を加える。さらに加藤雅也、夏川結衣、渡部篤郎のベテランを配し。謎の中年男役に佐藤二朗を起用したのが成功の要因。真面目なのか不真面目なのか分からない態度で、ひょうひょうと捜査陣を煙に巻くあたりの演技は絶品といいたくなる。

　霊感で爆破事件を予知できるといいながら、名前以外の記憶はないといい募る中年男が警察に連行される。

　のらりくらりと会話しながら、実際に起こる事件と符合することから、無視することもできない。

　明らかに捜査陣を挑発し、捜査一課の聴取のプロがやってきても、いささかも動じない。

　彼の目的は何なのか。時間は刻々と過ぎていき、やがて事件は起きる。果たして警察は事態を解決することができるのだろうか――。

　作品の性質上、ディテールは見てのお楽しみ。予備知識もなしに作品を見ていくと、つくり手たちのもくろみに翻弄され、最後の最後まで画面から目が離せなくなる。ひたすらスピーディにストーリーを疾走しながら、取調室のやりとりはじっくりとみせる。緩急の使い方はみごとなものだ。

　しかもクライマックスのヤマ場もきっちりと用意して。おどろきの趣向が画面に炸裂する。この監督の作品で初めて、驚かされた。大した仕掛けである。

　もちろん本作の最大の功労者は佐藤二朗である。近年はMCからナレーションと、独特の話し方が人気となっているが、ここではとぼけた話し方、口調の随所に不気味さ、不穏さを滲ませる。まさにこの役は彼にしかできなかった。まさに唯一無二の存在感である。主演の山田裕貴も懸命に立ち向かっているのも好もしいが、佐藤二朗はまさに圧巻といいたくなる。

　ミステリーとして申し分のない仕上がり。詳細の巧みさを語りたいが、それは野暮というもの。満足できるエンターテインメントと断言しておきたい。