
10月24日(金)より、TOHOシネマズ日本橋、109シネマズプレミアム新宿、新宿ピカデリー、渋谷パルコ8F WHITE CINE QUINTO、 TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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近年、往年の作品に新たなイメージを付加してリメイクする傾向が増加している。オリジナルの作品を生み出すよりも、すでにイメージの固まっている作品に新たな脚光を投げかけて現代的な作品に錬金する方が知名度の点でも抜きんでているというわけだ。
本作もまたその範疇に入る。1989年に製作された『ローズ家の戦争』と同じウォーレン・アドラーの原作をもとにしている。当時、『ロマンシング・ストーン/秘宝の谷』での共演が話題になったマイケル・ダグラスとキャスリーン・ターナーに、いがみあう夫婦を演じさせ、しかも監督がダニー・デヴィートであることも大いに話題になった。
『危険な情事』や『ブラック・レイン』などの話題作でアグレッシヴな個性を売りにしていたダグラスは当時、最も輝きを持っていたし、一方のターナーも『女と男の名誉』や『ペギー・スーの結婚』など、話題作が続いていた。このふたりが憎みあう夫婦を演じれば、迫力満点なのは確実。実際、作品は世界各国でセンセーションを巻き起こした。
それから長い年月の後、装いも新たに本作の登場となった。原作が同じでありながら、脚本を担当したのがトニー・マクナマラ。ヨルゴス・ランティモスの『女王陛下のお気に入り』や『哀れなるものたち』を生み出し、『クルエラ』を担当した傑物だ。
マクナマラは原作のエッセンスを汲みながらも、今様の夫婦像を創出。アッパーミドルのアメリカ家庭をチクリと風刺しながら、辛辣さとユーモアを加え、夫婦の在り方を滑稽に問い直してみせる。
さらに監督がジェイ・ローチとくる。『オースティン・パワーズ』や『ミート・ザ・ペアレンツ』のような明快コメディから、『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』や『スキャンダル』といったドラマもつくりあげる。本作では軽妙に夫婦のマウントの取り合いを紡ぐ。あくまでも明るく、痛烈に夫婦の在りようを浮かびあがらせる。
この脚本、監督に加えて、俳優陣の充実ぶりが嬉しい。ヒロインには『女王陛下の贈り物』でアカデミー主演女優賞に輝いたオリヴィア・コールマン、対するは『パワー・オブ・ザ・ドッグ』や『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』でアカデミー主演男優賞にノミネートされ、『ドクター・ストレンジ』ではマーベルのヒーローの一翼を担っているベネディクト・カンバーバッチと、円熟の顔ぶれが揃えられている。
加えて、「サタデー・ナイト・ライブ」出身のコメディエンヌ、『バービー』にも顔を出していたケイト・マッキノン、『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』のアンディ・サムバーグ、『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』のアリソン・ジャネイなどクセの強いキャストで固められている。
14年前にロンドンで衝撃的な出会いをした建築家のテオとシェフのアイヴィは、結婚してカリフォルニアに移り住み、双子にも恵まれた。
成功し、誰もがうらやむ理想的な夫婦だった。だが嵐のために、テオの設計した建物が壊滅。アイヴィの開いたレストランは人気爆発。ふたりの立場は一挙に逆転する。
ふたりの関係は音を立てて崩れ、心に秘めていた競争心や不満が火を噴く。次第に口論、罵り合い、つかみ合い、やがては銃まで持ち出す事態へと発展する――。
アイヴィ役のコールマンの気のいい主婦が、挫折したテオ役のカンバーバッチに最初は同情するも、少しづつ反感を募らせていく過程をコミカルに表現すれば、カンバーバッチは誇張した表現で、プライドを守ろうとする男心を浮かび上がらせる。ともに達者、丁々発止の演技合戦に拍手を送りたくなる。
ジェイ・ローチの演出は、エスカレートする夫婦のいがみ合いを心地よい疾走感で押し切り、あくまでエンターテインメントとしての資質を守り抜く。ふたりの俳優の持ち味を活かし、アメリカ式成功を皮肉ってみせる。
ひさびさに楽しめる、エンターテインメントとして出色の仕上がり。まずは一見をお勧めしたい。