『マーヴィーラン 伝説の勇者』は、インド映画ならではの唄と踊り、アクション、社会風刺に満ちた一大娯楽作!

『マーヴィーラン 伝説の勇者』
7月11日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー
配給: ファインフィルムズ
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公式サイト:https://maaveeran-movie.com/

 インド映画もすっかり日本に定着した感がある。長い上映時間いっぱいに観客を楽しませるべくあの手この手を網羅。分かりやすいドラマ展開のもと、アクション、スタント、歌と踊りまでふんだんに盛り込む。必然的に上映時間が長くなるわけだが。とにかく見る者をいかに楽しませるかに腐心している。

 近年はインド映画の認知度も高まり、世界各国でファンも倍増。さまざまなアイデアの快作が誕生している。

 本作もそうした1本である。タミル語で製作された、ヒーロー映画といえばいいか。社会風刺を盛り込みつつ、ひとりの男のヒーローとして成長する姿を、ユーモアを散りばめつつ軽快に描き切る。タミル語圏のスーパースター、シヴァカールティケーヤンが気弱な漫画家に扮し、コミカルな味を前面に押し出す。

 監督は長編映画デビュー作『マンデラ』で2022年国家映画賞新人監督賞に輝いたマドーン・アシュヴィン。脚本も手掛けて、政治の腐敗と庶民の怒りを核に、オリジナリティに溢れたストーリーを構築している。

 さらに映画監督としても知られるミシュキンが悪徳政治家を演じ、『ヴィクラム』のビジャイ・セードゥパティが主人公の運命を翻弄する“天からの声”を担当。ラシニカーントの『ロボット』を監督したシャンカルの娘、アディティ・シャンカルが紅一点、主人公を励ますヒロインを演じる。

 新聞の連載漫画のゴーストライターに甘んじているサティヤは気弱で、波風の経たない日々を望む青年。強気な母と妹の三人暮らしで貧乏に甘んじている。

 ある日、住んでいる地域が開発対象となり、立ち退きを余儀なくされる。移転先は高層マンションだった。地域の住民は大喜びで引っ越すが直ぐにとんでもない欠陥住宅であることが判明する。

 悪徳政治家ジェヤコディの一派が仕切る手抜き工事だった。しかも妹に手を出す部下まで現れ、サティヤは勇気を奮って立ち向かうが返り討ちに遭う。

 絶望して屋上に上がり、誤って落下してしまう。奇跡的に生還したサティヤだったが、以来、彼の耳元で勇壮な「声」が聞こえるようになる。声はサティヤを「勇者」、ジェヤコディを「死に神」と呼ぶ。

 声の通りに行動するとジェヤコディに盾突くことになる。サティヤは自らを英雄と思えないことから、何とか穏便に済ませようとするが、事態はさらに悪い方に向かっていく。サティヤが英雄になる日は来るのか――。

 どこまでもヒーローであることを否定する主人公というのも珍しい。最大の敵は自らの心の弱さというオチも効いている。庶民を騙して蔑ろにする政治家の存在は、妙にリアルだし、クライマックスに用意された一大スペクタクルまで、さまざまな趣向が凝らしてあり、グイグイと見る者を引っ張る。この監督はこれまでのインド映画にないテイストで勝負しようと務めているのか、随所でヒーロー映画のツボを外し、ユーモア満点の語り口に徹している。

 主演のシヴァカールティケーヤンのそれほど強そうでないところもキャラクターにぴったりとはまっている。悪役に扮したミシュキンの貫禄とは好対照のところもキャスティングのうまさだ。

 インド映画の常として、こうした内容でもアクション、スペクタクル、そして歌と踊りと盛り沢山。とりわけ、高層住宅に引越しした庶民たちが踊る群舞のダイナミズムは圧巻。力強い唄と踊りにひたすら惹きこまれる。

 161分という上映時間は決して短くはないが、あらゆるエンターテインメント要素を網羅した内容には満足できるはず。インド映画は面白い。