
7月11日(金)より、TOHOシネマズ日比谷、TOHOシネマズ新宿、TOHOシネマズ六本木ヒルズほかで全国ロードショー
配給:東宝東和
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公式サイト:https://www.universalpictures.jp/micro/drop
不条理な怖さというのがある。自分が突然、出口のない状況に追い込まれてしまい、理由も分からないままに懸命にあがく。深い沼に叩き込まれた状態といえばいいか。ただやみくもに手足をばたつかせるしかない。理由など考える余裕もない。本能の赴くままに行動するしかない。
そうした恐怖はSNS時代にも厳として存在する。ある日、自分の携帯電話に見知らぬメッセージが送りつけられ、理由も分からずに慄然とすることがある。相手も分からない。悪意に満ちた内容も意味不明。どうして私の電話を知ったのか。相手は誰なのか。敵が分からないままでは反撃することもできない。こういう被害はますます増加していると聞く。
本作が扱っているのはまさにスマートフォンならではの恐怖世界だ。プロデューサーのキャメロン・フラーが海外旅行中に、スマートフォンから「DROP」のリクエストが届き、受け取ってみると不気味で個人的なメッセージだった。楽しい気分が一瞬で不穏な雰囲気に包まれたのだという。
これが着想のもとになってストーリーが構築されることになった。『トゥルース・オア・デア ~殺人ゲーム~』のジリアン・ジェイコブスと、『フライト・ゲーム』のクリス・ローチにこの体験を伝え、ストーリー化を指示した。ふたりはアイデアを膨らまし、緊迫感に溢れたシチュエーション・サスペンスに仕上げた。
監督に起用されたのは『ハッピー・デス・デイ』などで知られるクリストファー・ランドン。きびきびした語り口でグイグイと惹き込み、追い詰められるヒロインの心情に迫りながら、一気呵成のクライマックスに雪崩れ込む。突然に出口なしの状況に追い込まれたヒロインの悪戦苦闘ぶりをスピーディに描き出していく。
ヒロインを演じるのは『女神の見えざる手』に出演後、テレビシリーズ「NYガールズ・ダイアリー」で認知度を高めたメーガン・フェイヒー。決して若くはないが、色香とともに母の強さを持った女性像を存在感たっぷりに演じている。
共演は『ふたりで終わらせる/IT ENDS WITH US』のブランドン・スクレナーに『トゥルース・オア・デア ~殺人ゲーム~』のヴァイオレット・ビーンなど、フレッシュな顔ぶれが揃っている。
夫の死を乗り越えてはいないが、バイオレットはシングルマザーとして新たな出会いを求め、マッチングアプリで知り合った男性とのデートに臨む。
幼い息子の面倒を妹ジェンに頼み、精一杯におめかしをして、ビルの最上階にあるレストラン「PALATE」に出かけた。
女性として楽しく過ごしたい彼女に、突然、DROPメッセージが届く。「息子の生命と引き換えにデートの相手を殺せ」というものだった。
DROPメッセージは半径15メートル以内が通信圏。息子と妹のいる家に暴漢が入り込んでいる映像を映し、誰かに助けを求めることもままならない。
マッチングアプリの相手のヘンリーは何をしでかしたのか。脅迫者の要求に従いながら、バイオレットは懸命に頭を巡らす――。
この理不尽な状況のなかでどのように解決するかは見てのお楽しみ。ちゃんとしたクライマックスが用意され、カタルシスも得られるので十分に満足させられる。出演者がそれほど馴染みのないことも、二転三転するストーリーにふさわしい。
すごい大作というわけではないが、冒頭から翻弄され最後まで楽しめる。こうしたサスペンスもいいものだ。