『メガロポリス』はフランシス・フォード・コッポラが映画化を熱望し続けた近未来叙事詩!

『メガロポリス』
6月20日(金)より、TOHOシネマズ日比谷、丸の内ピカデリー、新宿ピカデリー、グランドシネマサンシャイン池袋ほか、残酷ロードショー
配給:ハーク、松竹
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公式サイト:https://hark3.com/megalopolis/
 

 フランシス・フォード・コッポラの名を聞けば、ただちに『ゴッドファーザー』〈1972〉や『ゴッドファーザーPARTⅡ』(1974)、『カンバセーション…盗聴…』〈1974〉に『地獄の黙示録』〈1979〉などの作品が頭に浮かぶ。20世紀後半のアメリカ映画に輝きをもたらした映画監督・プロデューサーであり、20世紀後半のアメリカ映画界においてジョージ・ルーカスやスティーヴン・スピルバーグといった若き匠たちを牽引する役割を果たした。

 後年は作品を発表しながらも、それほど脚光を浴びることはなくなったが、ホラー、サスペンス、人間ドラマと、ことあるごとに存在を主張した。いずれも作品にかける情熱はいささかも衰えを感じさせなかった。

 本作は1980年代初頭から温めてきた企画だという。ローマ時代に国家転覆を目論んだルキウス・セルギウス・カティリナのストーリーに触発されたコッポラは、長年、脚本を推敲。古代ローマと現代アメリカを重ね合わせた寓意に満ちた作品に仕上げた。

 貧困と富裕の格差が著しいアメリカ共和国ニューローマを舞台に、すべての人々が幸せに暮らせる理想社会「メガロポリス」建設にかける天才建築家カエサル・カティリナの軌跡が圧倒的なスケールで描かれる。

 この企画が実現するまでに長い時間がかかったが、コッポラは1億2000万ドルという製作費を、私財を投げうつことで調達。アメリカ・メジャースタジオの指図を受けることなく思いのたけを込めて描き出した。

 出演者も豪華で、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』で一躍注目され、前作『フェラーリ』でも好演を見せたアダム・ドライヴァーを主役に抜擢。

 さらに共演者も『コットンクラブ』のジャンカルロ・エスポジート、『チャンプ』のジョン・ヴォイト。『地獄の黙示録』のローレンス・フィッシュバーン、『ロッキー』のタリア・シャイア、『イーグル・アイ』のシャイア・ラブーフ。加えて名優ダスティン・ホフマンまで顔を出すのだから、まさに豪華絢爛である。いずれもコッポラの新作に協力したいと馳せ参じた面々だ。

 富裕層と貧困層の格差が進んだ大都市ニューローマ。市の都市計画局局長で天才建築家のカエサル・カティリナは、誰もが平等の理想都市メガロポリス計画を推進する。

市長のフランクリン・キケロは財政難を理由にカジノ建設を主張し、カエサルと激しく対立する。

キケロの娘ジュリアは、カエサルを嫌悪していたが、メガロポリス計画のビジョンに共鳴し、父との仲を取り持つべく、彼のもとで働き始める。

カエサルは一族の後継を狙うクローディオ・プルケルの策謀にも巻き込まれ、絶体絶命の危機に陥る――。

 企画を長年、温めている間に、2001年ニューヨーク同時多発テロを経験し、時間の経過とともに格差の拡大を実感したコッポラは思いのすべてを作品に注ぎ込んでいる。作品の進行とともに、壮大な世界がどこまで広がるのか、いささか心配になるが、監督はいささかも頓着しない。育んだ世界観を、たとえ青臭く見えようとも、映像に焼き付けていく。アメリカ、カンヌ国際映画祭では評判がよくなかったようだが、1939年生まれの匠が今も情熱をたぎらせて映像化する姿勢に、素直に脱帽したくなる。

 ゴージャスなオペラを見せられているような心地になる。コッポラは今のアメリカの在り方に決して納得せず、異を唱えていることが伺える。どこまでも豪華で、大ぶろしきを広げ、見る者を圧倒しようとする。

 コッポラらしさが画面に横溢したSF叙事詩、一見に値する「快怪作」と言っておきたい。