
6月6日(金より)よりTOHOシネマズ日比谷、kino cinema新宿、渋谷パルコ8F WHITE CINE QUINTOほか全国ロードショー
配給:キノフィルムズ
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公式サイト:https://www.wlit.jp
どんなに魅力的なストーリーでも、演じる俳優の個性によって仕上がりは大きく変わってくる。いうまでもなくキャスティングは作品の魅力に大きく影響する。近年は、輝きをもったスターはめっきり少なくなったが、その分、個性を前面に押し出す俳優は増えている。個性派はどんなジャンルであっても、持ち味を存分に発揮できるか否か。キャスティングの苦労はここに尽きるし、成功した映画の殆どがツボにはまった俳優たちの競演がある。
本作は2003年に『ダブリン上等!』で長編監督デビューを果たし、『BOY A』や『クローズ・サーキット』などで実力を培って、『ブルックリン』では市アーシャ・ローナンンの魅力を存分に引き出し、2015年の第88回アカデミー賞において作品賞、主演女優賞、脚色賞にノミネートを果たしたアイルランド出身監督、ジョン・クローリーがひさびさに手掛けた愛の物語。そこはかとないユーモアと繊細さが前面に押し出された内容が高い評価を受けている。今のアメリカ映画界を牽引するスタジオA24が北米配給権を得得したことでも大きな話題となった。
基本的には感涙必至の恋愛映画といえばいいか。難病も登場するし、定型的な設定ではあるのだが、英国を代表する脚本家ニック・ペインは悲劇ではなく人生を謳歌する讃歌としてストーリーをつくりあげた。そのために「時間を映画的に使う」手法で、時間を交錯させた。些細な瞬間を広げ、愛の力をグイと引き延ばして見せる。
この脚本に魅了されたクローリーはどんなかたちにせよ、人生を楽しみ、辛いことも悲しいことも愛することのスパイスであると訴えかける。
監督のこの思いは演じる俳優たちが存分に受け止めている。ヒロインを演じるのは『ミッドサマー』で衝撃を与え、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』でアカデミー助演女優賞にノミネートされ、『オッペンハイマー』でも個性を発揮したフローレンス・ビュー。女性の逞しさ、もろさも十全に表現できる若手のピカイチである。
クセのあるビューに対するは『ソーシャル・ネットワーク』や『アメイジング・スパイダーマン』で人気を博したアンドリュー・ガーフィルド。ナイーブで繊細なキャラクターを演じさせたら右に出る者はいない。『BOY A』でクローリーの演出は経験済みで、ここではビューの攻めの演技を受けて、哀しみと喜びをさらりと演じ切る。『アンダー・ザ・シルバーレイク』なんていうヘンな映画に主演する許容度の広さもガーフィルドの持ち味になっている。
新進気鋭のシェフ、アルムートとシリアルの会社に勤めるトビアスは恋に落ち、一緒に暮らし、子供が生まれた。
ふたりの幸せな生活は、アルムートが寛解したはずの癌が再発したことで変化する。彼女は苦しく耐えるだけの治療の1年間よりも、前向きな最高に楽しい半年を過ごしたいとトビアスに伝える。
そんななか、元上司から世界最高峰の料理コンクール「ボキューズ・ドール」の出場を打診される――。
人間はいつかは死ぬ。生きている間に、いかに充実した日々を送り、愛し愛されるか。このメッセージに則り、クローリーは優しく二人の行動を見守る。どちらかといえば、痛快な日々で埋めたいアルムートと、優しく包み込むトビアス。おそらく、近年見たベスト・カップルといいたくなる。
アルムート役のフローレンス・ビューの共感度の高さはまさに脱帽に値する。料理に向かう真剣さ、強さの一方で、愛する男、子供に接するときの優しさ。その表情のひとつひとつが心に残る。髪の毛を剃る潔さも含め、女優としての覚悟が感じられる。
アンドリュー・ガーフィルドは細やかで相手を思いやるキャラクターを熱演している。どこまでも素直でいい男を映像に焼き付けてくれる。
見終わった後に、幸せな気分をもたらしてくれる。まさにキャスティングの素晴らしさを称えたくなる作品だ。