『サブスタンス』は暴走する展開に唖然とさせられる、狂気のエンターテインメント!

『サブスタンス』
5月16日(金)よりTOHOシネマズ日比谷、新宿ピカデリー、109シネマズプレミアム新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー
配給:ギャガ7 GAGA★
©2024 UNIVERSAL STUDIOS
公式サイト:https://gaga.ne.jp/substance/

「怖いもの見たさ」に応えるのはホラーの王道だが、期待を超えた作品はそれほど多くない。ホラーを見慣れてくると、恐怖の限界点がある程度把握できるようになってくるのだが、本作は違った。

 軽々と限界点を超え、しかもメッセージ性も十分。女性が評価の対象とされる美醜の問題に切り込み、エンターテインメントとして成立させた。なるほど、カンヌ国際映画祭をはじめ、アカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞などを賑わしたことも理解できる。アメリカでも公開時に話題となり、怖くて面白いとセンセーションを巻き起こした。

 監督はフランス生まれのコラリー・ファルジャ。フランスで映画を学び、短編映画を発表したのち2017年に『REVENGE リベンジ』を送り出し、その才能を高く評価された。

 本作では女性の価値基準にされやすい「美」を題材に、執着と渇望が交錯する驚くべきストーリ―を自ら構築。監督にも名乗りを上げた。

 最大の話題はヒロイン役を『ゴースト/ニューヨークの幻』の可憐なヒロインで人気を博し、『G.I.ジェーン』などで1990年代を席巻したデミ・ムーアが演じたことだ。勝気なヒロインを得意にしていた彼女も62歳。変わらぬ美人ながら、老いも感じさせる。だからこそ、本作に挑んだことを称えたくなる。よほどの覚悟、自信がなければ挑めないはずだ。ことばを変えれば、本役を演じ切ったことで、女優として一皮むけたともっぱら。実際にアカデミー主演女優賞にノミネートされ、ゴールデン・グローブ賞ミュージカル・コメディ部門主演女優賞を獲得した。

 共演は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で注目され、『哀れなるものたち』や『ドライブアウェイ・ドールズ』、『憐れみの3章』など。問題作に起用されることの多いマーガレット・クアリー。ふたりのなりふり構わぬ熱演に見る者は快哉を叫びたくなる。

 かつては女優として数々の賞に輝き、人気を博したエリザベスも50歳を超えて容色が衰えてきた。テレビのエアロビ番組のプロデューサーは番組の終わりを宣言し、新たにオーディションで若いスターを探そうとしていた。

 衝撃を受けたエリザベスは事故を起こす。奇跡的に大事に至らなかった彼女のポケットにUSBが入れられていた。

 なかには「1 回の注射で新たな細胞分裂が始まり、若く美しく完璧なもう一人のあなたを作り出す」という、再生医療“サブスタンス”の広告映像が入っていた。

 悩んだ末に。エリザベスがサブスタンスのオフィスに出向くと薬剤が渡される。

 家に戻って、説明書通りに薬剤を注入すると、またたくまに DNA が分裂。彼女の背を破って“完璧な自分”が現れる。彼女はオーディションへと出かけ、スーと名乗って新番組のレギュラーを掴み取る。

 ひとつの精神をシェアするエリザベスとスーには、「1 週間ごとに入れ替わる」というルールを設ける。

 若さと美貌、その上にエリザベスの経験を秘めたスーは一気にスターの階段を駆け上がる。次第に楽しさに駆られたスーは1週間のルールをおろそかにし始める。やがて想像を絶する影響がエリザベスに襲い掛かり、狂気の出来事に結びついていく――。

 まこと期待のはるか上をいく展開だ。女性監督だから、ここまでズケズケと同性に切り込める。常に、いつまでも美しくありたいと願うゆえに道を誤る。人気商売ゆえに仕方がないことかもしれないが、いじらしく悲しい。

 それにしてもこの監督、ここまで仮借なくエスカレートするのか。とことん激しい描写には口をあんぐり。デミ・ムーアにこれを演じさせた勇気に脱帽したくなる。ムーアもよく受けた。ヒロインの心情を思いやると悲しいものがある。ゴールデン・グローブが評価したのも納得がいく。

 一方のマーガレット・クアリーは素敵に美しい。はちきれんばかりの肢体と美貌。誰もが頷く輝きを映像に焼き付けてくれる。

 ホラーとしても超一級。新旧女優の競演を心行くまで楽しめる。間違いなく、2025年を代表する快作といいたい。