
4月26日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
配給:ムヴィオラ
©2023 Gladys Glover – House on Fire – CS Production – ARTE France Cinema – Les Films Fauves – Volya Films – WANG bing
公式サイト:https://moviola.jp/seishun/
写真は 『青春-苦-』
映画はそれぞれの視点から、世界を知らしめてくれるが、とりわけドキュメンタリーは作り手の思いが色濃く反映されやすい。もはや客観的事実などありえないことは分かっている。誰が、どのような立場で何を表現するかが問われるわけだ。
現在のドキュメンタリー・シーンで圧倒的な存在感を示しているのは、中国のワン・ビンである。
2003年に9時間に及ぶ『鉄西区』を発表し、一躍、注目された。中国の瀋陽にある工業地域の変遷を3部構成で描き出し。移ろう時間のなかで工場、街、人々の記録を浮かび上がらせる。映像には現代中国社会が抱える病巣も映し出していた。この作品は「山形国際ドキュメンタリー映画祭の最高賞に輝くとともに、ワン・ビンの名を強く印象付けたのだ。
さらに2007年には『『鳳鳴―中国の記憶』で2度目の山形国際ドキュメントリー映画祭最高賞に輝いた。この作品では地方の元新聞記者・和鳳鳴が綴った過去を見据える。文字通りカメラが鳳鳴を凝視し、彼女の壮絶な記憶を語らせる。1950年代以降の中国の反右派闘争、文化大革命の粛清などが生々しく語られていく。
この頃にはワン・ビンの名前も広く知られるようになり、彼の劇映画である『無言歌』や『三姉妹~雲南の子』、『収容病棟』などが公開された。
だがワン・ビンの躍進は続く。2016年には浙江省の出稼ぎ労働者を題材にした『苦い銭』を送り出し、2018年には8時間を超える「反右派闘争」の飢餓を証言した『死霊魂』を発表。3度目の山形国際ドキュメンタリー映画祭の最高賞を手にした。
『青春』はそうしたワン・ビンの健在ぶりを焼き付ける三部作である。すでに第1部の『青春』は2024年に劇場公開されているが、ワン・ビンは当初から3部作になると構想していたが、完成時期がバラバラになったために、映画祭が争って争奪戦を演じた経緯がある。監督によれば2部からでも3部からでも、あるいは1作品だけでも見られるようにしているが、3作品すべてをみることで「一つの場所、一つの時代」が浮かび上がるように製作されている。
舞台となる長江の下流域「長江デルタ地域」にある織里は子供服の一大製作工場として知られている。安価な労働力として各地方から「農民工」が集められる。中国は未だに農村戸籍と都市戸籍の間に厳密な区分がなされている。農村の子供たちが金を稼ぐには出稼ぎ労働しかないが、決して賃金は高額ではない。
そうした状況を踏まえ、ワン・ビンが浮かび上がらせるのは「金によって人が流れゆく」時代そのものだ。
カメラはミシンが鳴りやまぬ工場に入り込み、縫製の手を休ませない若者たちを捉える。若いゆえに色恋の興味は十分にあるが、まずはどれだけの金が稼げるか。群れを成して社長に談判することも辞さない。しかし社長も決して豊かではない。それぞれがわずかな金額のために右往左往させられている。
第2部『青春₋苦₋』では縫製工場のあわただしい時間を活写し、春節までの時間が描かれる。
第3部『青春₋帰₋』では故郷での日々。雲南省のカップルは故郷で結婚式を挙げる、故郷のよろこびの日々は続かない、また激務の日々が待ち受けている――。
撮影期間は2014年8月から2019年3月。主に2014年~2015年に撮られた部分が軸になっている。2020年にはコロナ禍が起こり、作品に描き出されたような忙しさはなくなってしまった。当然、しわ寄せは農民工にくる。失業の問題が大きく横たわっている。本3部作のような繁盛ぶりは影を潜めていると思われる。題材的には『苦い銭』と同じようだが、本3部作では若者たちにより焦点を当てている。
全編、うねりのように若者たちの息吹に溢れ、彼らの思い、欲望、現実が映像に焼き付けられている。
ある地域に入り込み。圧倒的な熱量で映像に仕上げる。ワン・ビンのそのパワーには脱帽あるのみだ。