『アマチュア』はひさしぶりにスパイ・スリラーの醍醐味が堪能できる復讐譚!

『アマチュア』
4月11日(金)よりTOHOシネマズ日比谷、丸の内ピカデリー、109シネマズプレミアム新宿。新宿バルト9ほか全国劇場公開
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.
公式サイト:https://www.20thcenturystudios.jp/movies/amateur

 活きのいいスパイ・アクションの登場である。能天気なスーパースパイが奇想天外な活躍をする空疎なエンターテインメントと異なり、本作はリアルな世界情勢に則り、シリアスでスリリングな展開を誇る。
 原作はロバート・リテルの「チャーリー・ヘラーの復讐」。この原作は1981年に一度、映画化されたことがあるが、現在の状況を加味して新たな変化が加えられている。今回の脚本は『バリー・シール/アメリカをはめた男』のゲイリー・スピネリと『ブラックホーク・ダウン』のケン・ノーランが担当し、ストーリーを現代風にアレンジ。時代にふさわしい意匠に練り上げた。
 メガフォンをとったのは、これまでBBCを中心にドキュメンタリーから出発し、ドラマに転身したジェームズ・ホーズ。「ブラック・ミラー」や「スノー・ピアサー」「窓際のスパイ」などを生み出した。映画作品では2023年に『ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命』でデビューを果たしている。多様な題材を巧みに映像化する存在で、本作でも世界各国にロケーションを敢行。畳みかける様な語り口で緊迫感を最後まで維持し続ける。
 嬉しいのはキャスティングも趣向を凝らしてあることだ。主人公を演じるのが『ボヘミアン・ラプソディ』でアカデミー主演男優賞に輝き、『オッペンハイマー』でも個性を発揮したラミ・マレック。知性はあるが非力なキャラクターはまさにうってつけである。
 共演は『クーリエ:最高機密の運び屋』のレイチェル・ブロズナハン。近々公開される『スーパーマン』でロイス・レインを演じる注目株だ。さらに『マトリックス』でおなじみのローレンス・フィッシュバーン、『ベルファスト』のカトリーナ・バルフなど充実した顔ぶれが揃っている。

 CIAで分析官を務めるチャーリー・ヘラーは妻と穏やかな日々を送っていた。彼女は仕事に勤しんでいて、今日もロンドンに出張することになっていた。
 数日間の出張。しかし、翌日、彼女がロンドンでテロに巻き込まれたことを知らされる。テロ集団に拉致され、射殺されてしまったのだ。
 呆然としながらも、データをかき集め、犯人を特定するが、上層部はなぜか動きが鈍い。業を煮やしたヘラーは、上司に掛け合い、半ば脅してCIAの特殊任務訓練プログラムを受ける。教官のヘンダーソンの制止も聞かず、初めて武器の手ほどを受ける。
 CIAの協力のないまま、ヘラーは独自の分析能力、情報収集能力を駆使して、情報協力者を得て、復讐に乗り出していく――。

 アメリカ、ラングレーのCIA本部からロンドン、パリ、イスタンブール、ロシア奥地と目まぐるしく舞台が変わり、非力な復讐者の行動が明らかになる。ジェームズ・ホーズの予断を許さないてきぱきした語り口に煽られて、ストーリーに惹きこまれるばかり。原作発表時とは政治状況が大きく変わっているなかで、なるほど納得のできる展開である。
 色彩を削ぎ落したような映像がリアル差を増し、ハンターとして成長していく主人公を浮かび上がらせる。クールなタッチがまことに小気味いい限りだ。
 ラミ・マレックはいかにも非力さを強調したキャラクターをさらりと演じ、個性を際立てているし、ローレンス・フィッシュバーンの不気味さもいい。地味なキャスティングがむしろ作品の色を際立たせている。
 昔はたびたび製作されたスパイサスペンスの醍醐味をひさびさに堪能させてくれる仕上がり。これは見逃す手はない。