
3月28日(金)より、TOHOシネマズ日比谷、109シネマズ プレミアム新宿、新宿バルト9ほか全国ロードショー
配給:東和ピクチャーズ
©️2024 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
公式サイト:https://betterman-movie.jp
ミュージカルの『グレイテスト・ショーマン』は日本では大きく注目された。メガフォンをとったマイケル・グレイシーはヒュー・ジャックマンの爽やかなパフォーマンスを引き出し、ヒューマニズム溢れるメッセージで作品を貫いた。
世界的にも話題となったこの作品の余勢を駆って登場したのが本作となる。しかも今度もミュージカル。さらに有名スターの軌跡をたどる内容とあって、期待は否が応でも高まったが、グレイシーはストレートには終わらさなかった。
なんと主人公をチンパンジーに見立てて描き出すという挙に出た。よほど洒落の分かる人間でないと、実現は難しいと思われるが、ロビー・ウィリアムズは喜んで引き受けた。
ウィリアムズといえば、イギリスでもっとも有名なポップグループ“テイク・ザット”の一員として人気を博し、グループ脱退後はソロとして活動。人気をさらに高めた。もっとも本人は、常に他人よりも劣っていると感じていたという。その思いがチンパンジーとして描くことにつながった。
脚本はウィリアムズ本人に加えて、グレイシー監督、俳優としても活動するオリヴァー・コールとサイモン・グレッソンも参画している。
イギリス北部の街に生まれ、ロビーは祖母の大きな愛に包まれながら育った。音楽的な素養は父と聞いた、スタンダードナンバーの名曲群。しかし、自信の持てないコンプレックスの塊に育つ。
1990年代初頭にボーイズグループ「テイク・ザット」のメンバーに選ばれる。ただ居心地の悪さを感じ、メンバーにうちとけることもなかった。
デビューし、ポップスターの道を駆けあがるが、本人は違和感を抱いていた。
そしてグループ脱退。ソロアーティストとして活動、英国ポップス界を代表するスターともてはやされるが、私生活では名声と成功とはうらはらの大きな危機と試練が待ち受けていた――。
スターの半生記としては、ドラッグや精神的葛藤はあるが、むしろノーマル。いたって普通の成長が描かれるにすぎない。だからチンパンジーのキャラクターにしたことによって、作品に個性を与えたのは、ユニークさを加味した点でよかった。最初は本編に入っても、チンパンジーの容姿に目を奪われストーリーが入ってこないのだが、委細構わず押し切るグレイシーの演出にぐいぐい惹きこまれていく。
なによりロビー・ウィリアムズの30年に渡るスターとしての生活を素直に映像化した点が好もしい。「テイク・ザット」の成功の感想やキャリアのアップダウンの対応がストレートに描かれている。家族に対する感情など共感できる点も少なくない。
もちろん、最大の魅力は音楽と踊りである。「ROCK DJ」、「シーズ・ザ・ワン」、「エンジェルス」「レット・ミー・エンターテイン・ユー」といったヒット曲が、シーンに合うようにロビーによって歌い直されている。さらに映画のために新曲「フォービドゥン・ロード」も書き下ろされているのも楽しい。
呼び物はロンドンのリージェント・ストリートを封鎖して行われたダンスシーン。アシュレイ・ウォーレンの振り付けのもと、痛快に踊りまくる。溌溂とした踊りが披露され、見る者の心を熱くする。思わず快哉を叫びたくなるひと時である。
クライマックスのコンサートシーンもなかなかにエモーショナルである。これまでロビー・ウィリアムズというシンガーにはそれほど興味をもっていなかったが見直した。素敵な歌いっぷりである。
ロビー・ウィリアムズは全編出ずっぱりだが、素顔をさらすことはない。ファンにはその仕草や動きで本人と実感されるかもしれない。共演はテレビで活動するスティーヴ・ペンバートン、『ライフ・イズ・スイート』のアリソン・ステッドマン、『エルヴィス』のケイト・マルヴァニーなど、地味ながら実力派俳優で固められている。
音楽もダンスも秀逸な作品。ミュージカル・ファンならこれを見逃す手はない。