『教皇選挙』はカトリックの最高指導者を選ぶコンクラーベを描いた最高に面白いミステリー!

『教皇選挙』
3月20日(木・祝)よりTOHOシネマズ シャンテ、kino cinema新宿、渋谷シネクイントほか全国ロードショー
配給:キノフィルムズ 提供:木下グループ
© 2024 Conclave Distribution, LLC 
公式ホームページ:https://cclv-movie.jp

 昔から選挙ほど面白いものはないといわれる。選ぶ側は“選ぶ”ことの力に酔うことができるし、選ばれる側は選ぶ人々に媚びる。もちろん、選ばれてしまえば選挙時が嘘のように選ばれた人間は庶民に力を行使するわけだが、選挙に至る時間軸のなかで庶民は選ぶことのパワーをつかのま実感できる。洋の東西を問わず、選挙が盛り上がるのはここに起因する。
 本作が題材とするのは、題名通り、カトリックの総本山であるバチカン市国の元首にして、カトリックの最高指導者、ローマ教皇の選挙である。教皇が死去するか、辞任したときに執り行われるコンクラーベ(教皇選挙のこと。”神と共に”の意味)。世界14億人を超えるカトリック信者に大きな影響を与えるが、完全な秘密主義で行われるので、あまり実情が知られることはなかった。
 この一大イベントに挑んだのが『ゴーストライター』や『オフィサー・アンド・スパイ』の原作者として知られるロバート・ハリス。ジャーナリスティックな視点で過去のコンクラーベを調べ上げ、一級のミステリーに仕上げた。ハリスは製作にも携わり、脚本を担当したのは巧みなストーリーづくりに定評のある『裏切りのサーカス』のピーター・ストローハン。原作の面白さをさらに映像としても維持できるように随所に伏線を散りばめる。
 メガフォンをとったのはエドワード・ベルガー。Netflixの『西部戦線異状なし』で第95回アカデミー賞の国際長編映画賞、撮影賞、作曲賞、美術商の4部門を獲得し、一躍、注目の存在となった彼が、満を持しての挑戦となった。
 
 カトリックの最高指導者、ローマ教皇が心臓発作で急逝した。
 イギリスの首席枢機卿ローレンスは悲しみに浸る間もなく新たな教皇を選ぶコンクラーベの責務を負う。
 3週間後、世界各地から高位の枢機卿たちが集まった。今回、候補者は4人いた。教会内のリベラル派でローレンスとも親しいベリーニ、ナイジェリア人アデイエミ、強硬な伝統主義者のイタリア人テデスコ、穏健な保守派だが前教皇が疑念を抱いていたカナダ人のトランブレ。
 選挙は108人の無記名投票で行なわれ、3分の2以上の票を獲得することが必須条件となる。コングラーベの1日目は誰も票が達せず、持ち越しになる。ローレンスも秘かに教皇の座を狙っているのではないかという憶測が飛び、カブール教区から来たメキシコ人のベニテスもしがらみのないところから候補に挙がる始末。
 さらにスキャンダルが発覚して、候補資格を失う者も出現。ローレンスの思惑を超えて、事態は予断を許さない状況に追い込まれていく――。

 映画が始まるや、骨太な語り口にぐいぐいと惹きこまれる。聖職者を名乗る者でありながら、権勢欲に燃えて、生々しく行動する枢機卿の姿に憤り、旧態依然たるしきたりのなかで最高位の教皇が選出される面白さに酔う。エドワード・ベルガーの演出は重苦しくなく、語り口は快調そのもの。コンクラーベを分かりやすく伝えながら、枢機卿たちの心の裡を浮き彫りにしていく。まさしく上質のミステリー小説を読んでいる心地にさせられる。
 ベルガーの演出を理解し、みごとな演技を披露する俳優たちの演技も特筆に値する。ローレンスには『イングリッシュ・ペイシェント』や『ことの終わり』、『ハリー・ポッター』シリーズのヴォルデモート卿で名を売ったレイフ・ファインズが扮するのをはじめ、ベリーニには『プラダを着た悪魔』のスタンリー・トゥッチ、トランブレには『ガープの世界』のジョン・リスゴー。テデスコには『赤いアモーレ』セルジオ・カステリット。さらに加えて『ブルー・ベルベット』が忘れがたいイザベラ・ロッセリーニまで顔を出す。7まさに芸達者、演技派が揃って、己のスキルを披露しあう楽しさに溢れている。

 年齢を増せば増すほど楽しめる。芝居の楽しさを満喫させてくれる良品である。ちなみに第97回アカデミー賞では脚色賞に輝いている。英国アカデミー賞では作品、脚色、編集賞の上に英国作品賞も獲得している。男たちの腹の探り合いをくっきりとみせて、最後には驚くべき秘密も用意している。これは必見だ。