
1月31日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿ピカデリー、Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下、TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
©2024 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved. ©El Deseo. Photo by Iglesias Mas.
公式サイト:https://warnerbros.co.jp/movies/detail.php?title_id=59643&c=1
1980年代から活動し、多くの話題作を紡いできたスペイン映画界の匠、ペドロ・アルモドバル。『神経衰弱ぎりぎりの女たち』(1987)や『オール・アバウト・マイ・マザー』(1998)、『トーク・トゥ・ハー』(2002)、そして2019年の『ペイン・アンド・グローリー』まで、長年にわたってコンスタントに作品を送り出しつつ、時代を突き抜けた傑作を必ず生みだした。
注目された当初はメロドラマチックなストーリーとスキャンダラスな世界観、強烈な色彩感覚が日本でも話題となり、熱狂的なファンを擁した。アントニオ・バンデラス、ペネロペ・クルスなどは彼の作品で世界に知られるようになった。
素晴らしいのは現在に至るまで創作意欲が衰えないことで、若い頃よりスキャンダルな部分は影を潜めたが、生きることのペーソスを前面に打ち出した、共感度の高い作品を発表してきている。
本作は2024年に発表され、第81回ベネチア国際映画祭の最高賞にあたる金獅子賞に輝いている。それも母国語のスペイン語ではなく、全編を英語で貫いている。アルモドバルにとっては長編作品で初の試みだ。
題材は人生の黄昏を迎えた監督(75歳)らしく、人生の最後をどのように迎えるか、誰と迎えるかがテーマとなっている。人間はだれしも終わりが来るが、真剣に死に向き合う人は少ない。しかし不治の病に侵されてしまったら否応もない。そうした状況を細やかな女性映画として映像化したのが本作となる。
出演は英語映画にふさわしく、豪華で凝ったキャスティングとなっている。まずコロナ禍のときに制約のなかで発表した短編『ヒューマン・ボイス』のヒロインに起用した、ティルダ・スウィントンと、『アリスのままで』でアカデミー主演女優賞に輝き、カンヌ、ベネチア、ベルリンの三大映画祭のすべてで女優賞を獲得したジュリアン・ムーアの競演だ。
加えて『バートン・フィンク』や『天井桟敷のみだらな人々』などで知られる個性派俳優ジョン・タートゥーロ、『クレイヴン・ザ・ハンター』のアレッサンドロ・ニヴォラといったクセのある男優たちが顔を揃えている。
小説家のイングリッドは同じ雑誌社で働いていたマーサとひさしぶりに再会を果たした。
マーサは不治の病に罹り、余命が僅かだった。ふたりはこれまでの会えなかった日々を埋め合わせするかのように、濃密な時間を過ごす。
安楽死を決意したマーサはイングリッドに、死を迎える瞬間に隣の部屋に誰かにいてほしいと自らの望みを打ち明けた。
誰もが避けたいような願いであったが、悩みながらもイングリッドは断ることができない。そしてその日は突然に訪れた――。
個性際立つティルダ・スウィントンのパフォーマンスに、受けの演技で堂々と対応するジュリアン・ムーア。ふたりの表現力が拮抗し、見事なハーモニーを醸し出す。若い頃のパワーはないが、人生の哀歓を味わい尽くしたアルモドバルがふたりの個性を巧みに引き出し、共感度の高い生と死のドラマを構築してみせる。弾けたところは影を潜めながらも、生きることの意味を静かに問いかけている。
ふたりの女優たちの演技は申し分なく、思わず胸が熱くなる。いつもながらアルモドバルの色彩感覚には感服させられる。
友情はどこまで応じられるのか。人生の黄昏を迎えた人たちには心に刺さる作品。一見をお勧めしたい所以である。