昔から映画大国として知られていたインドがさらにパワーアップし、近年、世界各国で大いに注目されている。日本でもインド映画の魅力にハマる映画ファンが増え続けているのはご存知の通りだ。壮大なストーリーテリングのなかに、アクション、スペクタクル、歌と踊りまで、およそあらゆるエンターテインメント要素が織り込まれている。
日本では『バーフバリ』2部作、『RRR』が大ヒット。『RRR』に至っては、アメリカの第95回アカデミー賞の歌曲賞に輝くなど世界を席巻した。
各国から注目されている現状に即して、インド映画界はさらにパワーアップ。とてつもないスケールの作品を生み出した。本作の製作費が『RRR』を超える110億円というのも驚きだが。それにふさわしく超ド級のSFスペクタクル・アクションに仕上げているのだ。
インド映画といえば神話世界や英雄伝説が数多いが、本作はイマジネーション豊かに凌駕する。数千年にわたって神々の戦いを語り継いできたインド神話世界に始まり、一気に6千年の時空を超えた未来世界で地球の命運をかけた戦いに広がっていく。圧巻のスケールの下、どこまでもこだわりぬいたヴィジュアルを維持し、未来のセットのデザインも完璧。その上で弾むミュージカルシーンもあれば、アクションも満載。ヴァイオレンス趣味もSFファンも満足させるつくりとなっている。もちろん、英雄譚と同じく熱いドラマ性はいうまでもない。
インドの2大叙事詩のうちで世界最長といわれる『マハーバーラタ』に登場するキャラクターの一部を選び出し、未来のディストピアSFとリンクさせるアイデアを着想したのは、ナーグ・アシュウィン。5年近い歳月をかけて実現させた。おりしもコロナ禍であったが、撮影前に未来の世界観を確定するためのコンセプトに費やしたという。
ナーグ・アシュウィンはニューヨーク映画学院で学んだ1986年生まれの俊英で、特撮技術の知識にも秀でていた。
本作の魅力はキャスティングにも表れている。何といってもヒーローを務めるのが、『バーフバリ』2部作の主演で世界に認知されたプラバースなのだ。アクションからコミカルなシーンまで痛快に演じ切る彼の持ち味がいかんなく発揮されている。本作が『バーフバリ』を凌ぐ当たり役になるのは間違いないだろう。
対するはボリウッドの生ける伝説といわれる名優アミターブ・バッチャン。そしてアメリカ映画『トリプルX:再起動』にも出演したディーピカー・パードゥコーンが色を添える。
古代インドの叙事詩「マハーバーラタ」にも描かれた戦争が終わり、勇士の殆どが倒れた。
英雄アシュヴァッターマンは敵国の後継者となる胎児を殺したことで、不死の呪いをかけられる。いつか生まれるヴィシュヌ神10番目の化身“カルキ”の母親を守ることを運命づけられた。
それから6000年後の2898年。世界は荒廃し、地上最後の都市は200歳の独裁者と空に浮かぶ要塞に支配されていた。
独裁者は150日間育った胎児から採取する血清を求めていたが、唯一囚われていたSU -M80だけがその資格を持っていた。
彼女に莫大な賞金がかけられ、無敗の賞金稼ぎバイラヴァも後を追う。ようやくSU -M80を捕獲せんとしたときアシュヴァッターマンが姿を現し、バイラヴァが敗北を喫する。
SU -M80はこの世界に救世主“カルキ”を送り出すことができるのか。バイラヴァとアシュヴァッターマンで勝利を握るのは誰か。予断を許さない展開が待ち受けていた――。
冒頭の神話世界から、一気呵成。スペクタクル、アクションで見る者を引き込み、ヴィジュアルインパクトに富んだ映像でぐいぐいと押し切ってくる。上映時間の長さなどいささかも苦にならない。画面に繰り広げられる映像にただ釘付けとなるばかりだ。展開の速さと見せ場をつないでいく語り口にただただ圧倒される。こんな壮大な物語世界を構築したことに拍手を送りたくなる。
セット、CGも見事だが、出演者も負けていない。バイラヴァに扮したプラバースは豪快そのもの。どこまでも強く逞しく、人間味豊かなヒーローを気持ちよさそうに演じている。アシュヴァッターマン役のアミターブ・バッチャン、ヒロイン役ディーピカー・パードゥコーンも可憐で好もしい。
何より驚くのが、この壮大世界がまだまだ続くことだ。みると必ず次が見たくなる。インドのストーリー世界の広大さには脱帽したくなる。