思いもよらない題材を映画化すると、確かに注目度は高くなる。本作が挑んだのは細胞の世界。人体内の細胞の働きを擬人化して映画化するというから、作品に接するまではおよそ想像がつかないはずだ。
原作となったのは、アニメーション化されてシリーズ累計1000万部を超えるヒットを記録した清水茜の同名コミック。これにスピンオフ作品「はたらく細胞BLACK」(原田重光、初嘉屋一生、清水茜共著)の世界を加えてストーリーが構築されている。
原作の大ファンだったプロデューサーたちが映画史上最小のキャラクターを俳優たちに演じさせるアイデアと、体内を壮大なスケール感で実写映画化する趣向にチャレンジ精神を刺激されて映画化を決定。
こうした途方もない企画を巧みに映像化できる存在として、監督には『テルマエ・ロマエ』や『翔んで埼玉』などのヒットを誇る竹内英樹に白羽の矢が立った。竹内監督自身もワクワクしながら演出を進め、総勢約7500名のエキストラを駆使する撮影をこなしたという。
脚本には『翔んで埼玉』でタッグを組んだ徳永友一が起用され、一大スペクタクルでありながら、ユーモアもふんだん。痛快さを追求したストーリー展開に仕上げている。
37兆個の細胞を演じる俳優たちを豪華な顔ぶれにしたのが本作の大きな魅力。『そしてバトンは渡された』や『マイ・ブロークン・マリコ』で存在感の高い永野芽郁がヒロインの赤血球に扮し、白血球は『るろうに剣心』シリーズのアクションが今も記憶に残る佐藤健が演じる。
この二人に加えて、阿部サダヲ、芦田愛菜、山本耕史、仲里依紗、松本若菜、染谷将太。さらに加藤清史郎、板垣李光人、加藤諒、深田恭子、Fukase(SEKAI NO OWARI)片岡愛之助などなど、まさに多士済々。この上なく豪華な布陣が揃っている。
人間の体内には37兆個の細胞があり、懸命にそれぞれの使命を全うすべく働いている。
高校生の漆崎日胡と父の茂の体内でも細胞たちが働き続けていた。日胡の体内の細胞たちは楽しく仕事ができていたが、不規則、不摂生の茂の体内の細胞はブラックな環境に疲れ切っていた。それでも細胞たちは自分たちの能力を最大限に発揮していたが、あるとき病原体が侵入を始めた。ふたりの存亡をかけて、細胞たちの最大の戦いが幕を開ける……。
テンポの速い語り口で、細胞たちの働きをギャグいっぱいに披露する。アニメーションなら可能だろうが、エキストラを駆使して細胞の仕事を再現するのはスケールの大きな仕掛け、セットが求められる。適したセット、ロケーションを探し出し、一大モブシーンを生み出す。その苦労にまず脱帽したくなる。
竹内監督は軽快なタッチで、ひたすらギャグをかまし、アクションをスリリングにつなぐ。あくまで理屈抜き、エンターテインメントに徹して疾走する姿勢が好もしい。面白さの最大要因は細胞の働きをギャグにしている点で、笑いながら勉強になるというイメージだ。豪華な俳優たちは誇張された扮装で気持ちよさそうに演じている。真剣におかしなキャラクターを演じ切るのはみていて感動的ですらある。
徹頭徹尾、擬人化したおかしさで貫く。そこには『翔んで埼玉』に似た、どんな題材も真剣に描き出せば面白くなるという姿勢が表れている。一見をお勧めする所以である