ふりかえれば、1987年の終わり頃だった。初めてリドリー・スコットにインタビューをすることになった。そのとき彼は落ち込んでいた。『エイリアン』と『ブレードランナー』は持ち上げられたのだが、『レジェンド/光と闇の伝説』が大酷評にさらされ、会ったときはすっかり意気消沈していたのだ。
スコットいわく「エステティックな映像派とカテゴライズされるのは決して本意ではない。自分はストーリーテラーでありたい」。その真剣なことばが強く印象に残っている。
それから紆余曲折を経ながらスコットは多様なジャンルの作品にチャレンジした。才能を発揮し始めたのは『ブラック・レイン』や『テルマ&ルイーズ』あたりから。ラブストーリーの『プロヴァンスの贈りもの』や『アメリカン・ギャングスター』、『ロビン・フッド』に『エクソダス:神と王』。近年も『ゲティ家の身代金』、『ハウス・オブ・グッチ』、『ナポレオン』などなど、手がける作品も多岐に及ぶ。
スコットの目指す“ストーリーテラー”とは、どんなジャンルの作品であっても軽々と演出する匠。ちょうど英国の俳優がどんな役柄でもこなせることを誇りにするのと似ているか。円熟から老境に向かい、さらに演出力が巧みになった印象だ。
本作は2000年に手掛けた自身の監督作の続編である。24年も間隔をあけて第2作に挑む。まして第1作は絶賛され、アカデミー作品賞に選ばれ、主演のラッセル・クロウは主演男優賞を獲得している。創作意欲を高めるために歳月が必要だったのか。
『トップガン マーヴェリック』の原案を担当したピーター・クレイグがこれまた原案に絡み、『ゲティ家の身代金』や『ナポレオン』の脚本でスコットの信頼厚いデヴィッド・スカルパがクレイグと原案を練り上げ、脚本に仕上げた。壮大で波乱万丈のストーリーはまさにスコットの独壇場だ。
時代は前作から時を経てローマ帝国が栄華を誇っていた頃。戦士としてヌミディアで暮らしていたルシアスは、ローマ帝国軍に攻撃されて愛する妻を死なせてしまう。
ローマ帝国の圧倒的武力でヌミディアは陥落。ルシアスは奴隷となり、奴隷商人マクリヌスに買われる。
ローマに連れてこられたルシアスは剣闘士としてコロッセウムで戦うことになるが、その出自は因縁と運命に彩られていた――。
本作では冒頭から超スケールの海戦シーンが用意されている。見る者をいささかも飽きさせることなくスペクタクルの綴れ織り。スクリーンに目をくぎ付けにする。スコットの語り口はまさに疾走するのみ。よどむことなく一気呵成にルシアスの数奇な軌跡を紡いでいく。前作よりも重厚さは少なくなったが、演出の巧みさは倍増。いかに観客の興味を削がないかに注力している。あくまでエンターテインメントに徹する、スコットの“ストーリーテラー”として面目躍如といったところだろう。
出演者も決して派手ではないが粒がそろっている。ルシアスには『aftersun/アフターサン』のポール・メスカルを抜擢し、ヒーローにふさわしい肉体にビルドアップさせているのをはじめ、ルシアスが仇と狙う将軍には『グレートウォール』のペドロ・パスカル。さらに前作から引き続きコニー・ニールセンが同じ役で出演している。
加えてマクリヌスにデンゼル・ワシントンを排しているのが注目である。『グローリー』と『トレーニング デイ』で二度のアカデミー賞に輝き、『フィラデルフィア』から『イコライザー』までヒロイックな役柄を得意にする彼が『アメリカン・ギャングスター』のようにスコット作品では異色のキャラクターに挑戦している。本作でも何を考えているのかが分からない奥行のある役。ワシントンが楽しんで演じているのが画面から伝わってくる。ワシントンの参加で映画の魅力は倍加されている。
最初から最後まで、映像、ストーリーに堪能できる仕上がり。これは一見をお勧めしたい大作である。