『十一人の賊軍』は集団抗争時代劇のパワーが漲る、最後まで予断を許さないアクション大作!

『十一人の賊軍』
11月1日(金)より、丸ノ内TOEI、丸の内ピカデリー、TOHOシネマズ日比谷、新宿バルト9ほか全国公開
配給:東映
©2024「十一人の賊軍」製作委員会
公式サイト:https://11zokugun.com/

 群像劇の面白さは個性豊かな登場人物が織りなす葛藤、思いもよらぬ展開にある。普段はおよそ縁のない人間たちが最後は英雄的行動に走るストーリーは、分かっていても惹きつけられる。洋画で言えば『特攻大作戦』、邦画では『七人の侍』、『十三人の刺客』などは、今みても新鮮な驚きがある。

 本作は『博奕打ち 総長賭博』や『日本侠客伝』シリーズ、『仁義なき戦い』シリーズなどで知られる脚本家の笠原和夫の残した原案をもとに製作された。『碁盤斬り』やテレビドラマ「極悪女王」など近年、活躍目覚しい白石和彌が原案に魅せられ、『日本で一番悪い奴ら』や『孤狼の血』などでつきあいの深い池上純哉に脚本を任せた。

 戊辰戦争の日本を二分した内乱を背景に、新潟の新発田藩が旧幕府派奥羽越列藩同盟軍からの出兵要請と官軍進撃の板挟みとなった。城に居座る旧幕府派と迫りくる官軍。新発田藩城代家老は、城下を戦場にしないために一計を案じる。

 城下に続く街道にある砦で官軍を食い止め、時間を稼いでいるうちに旧幕府派を追いやろうとの算段。そのために死罪になるはずだった囚人たちを集め、生きることと引き換えに、官軍の進行を食い止めることを命じられる。集められた十一人は壮絶な戦いを繰り広げる破目になる――。

 砦を巡る攻防は西部劇などでもよくあるし、囚人たちのミッションという趣向は『特攻大作戦』などでおなじみパターン。囚人たちが捨て駒であることは自明だが、個性豊かなキャラクターが勢揃いしていて、意表を突いた展開にグイグイと惹きこまれる。白石和彌監督は幕末のリアルを表現しようと、映像にも工夫を凝らしてある。決して重苦しくならず、疾走する語り口はエンターテインメントに相応しい。もちろん、全編、アクションとスタントが満載され、一瞬も飽きさせない。クライマックスの攻防などは手に汗を握る迫力、パワフルの一語だ。

 笠原和夫の原案が完成されなかった理由は結末にあったといわれているが、白石和彌版はギリギリのところでラストを変更している。なるほど、これならば救いがあるか。近年、多彩な題材を手がけている監督らしく、見る者の心情を巧みに誘導している。

 キャスティングも群像ドラマらしくヴァラエティに富んでいる。白石監督とは『兇悪』以来の山田孝之が駕籠屋上がりの囚人に扮するのをはじめ、『すばらしき世界』などで進境著しい仲野太賀が砦を守るべく命じられた新発田藩の侍役でダブル主演を果たした。

さらに共演に尾上右近、鞘師里保、佐久本宝、岡山天音たちが囚人を演じる。官軍側は玉木宏やナダルなどが起用されている。

 なによりの注目は新発田藩城代家老に挑んだ阿部サダヲだろう。いつもの軽薄さを抑え込み、腹に一物あるキャラクターをさらりと演じてみせる。善人の貌を持ちながら、それだけでは終わらない人物を表現した。まことに豪華な顔ぶれだが、それぞれきっちりと役に成りきっているのが嬉しい。

 日本映画の伝統に従いながら、今の観客にアピールするようにつくられている。一見をお勧めする所以だ。