『アビゲイル』はクライム・サスペンスとホラーが融合した、痛快なサバイバルドラマ!

『アビゲイル』
9月13日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほか、全国劇場で公開
配給:東宝東和
© 2024 Universal Studios
公式サイト:https://www.universalpictures.jp/micro/abigail

 次々と新手なアイデアを持ち込んでヒットを狙う。ホラー・ジャンルは常に若手が台頭して新鮮な風を送り込んでくる。『スクリーム』シリーズをリブートしてヒットに結び付けたクリエイティブチーム、レディオ・サイレンスは注目株。マット・ベティネッリ=オルピン、タイラー・ジレット、チャド・ビレラ、ジャスティン・マルチネスが名を連ね、ユニークな作品を送り出している。

 本作はその最新作だ。クライム・サスペンスのスタイルで始まり、ホラーに変貌するや、大邸宅からの脱出、サバイバル・アクションの様相を呈する。次々と仕掛けが凝らされ、ヒネリの加え方がまことに心地よい。

 脚本は『ホール・イン・ザ・グラウンド』のスティーヴン・シールズが『レザボア・ドッグス』のような犯罪者集団がモンスターに遭遇するアイデアを発想。これをもとに『スクリーム』のガイ・ビューシックが脚本化した。踊る吸血鬼という突き抜けたキャラクター、たたみかけるスリルとサスペンス、滲み出るユーモアが身上となる。

 メガフォンを取ったのはベティネッリ=オルピンとジレットのふたり。多くの作品でチームを組んでいるふたりはホラーの枠を飛び出したエンターテインメントを目指したとコメントしている。

 5000万ドルの身代金を餌に見知らぬ犯罪者同士が集められる。兵士上がりの女医、後ろ暗いリーダー、ハッカー、狙撃手、用心棒、ドライバー。クセのある面々だ。

 彼らは12歳の少女を誘拐し、一晩、幽閉して引き渡す。カンタンな仕事のはずだった。誘拐は容易に済み、とある大邸宅に連れ込む。一晩、見張って引き渡せば、大金が手に入るはずだったが、少女の正体が躍る吸血鬼だったことから、阿鼻叫喚のサバイバル・アドベンチャーが開始される――。。

 犠牲者が犯罪者集団というところがミソ。おまけに吸血鬼が非力な少女という設定が抜群で、策を弄して吸血せんと図る趣向も楽しい。陰惨になることもなく、吸血鬼に立ち向かう展開はいっそ痛快だ。ベティネッリ=オルピンとジレットの演出はスピーディで快調。いかにもの犯罪者の個性をさらいながら、吸血鬼との戦いを際立たせている。

 嬉しいのは出演者たちだ。『スクリーム』のメリッサ・バレラを筆頭に、テレビシリーズ「ダウントン・アビー」や実写版『美女と野獣』のダン・スティーヴンス、『アントマン&ワスプ:クアントマニア』のキャスリン・ニュートン。さらに『サウザンド・アンド・ワン』のウィル・キャトレット、『ザ・ビースト』のケヴィン・デュランド、本作が遺作となったアンガス・クラウドなど、個性際立つ俳優たちが犯罪者集団を演じる。いかついおとなたちに伍して踊る吸血鬼に扮するのは『マチルダ・ザ・ミュージカル』(Netflixで配信)のアリーシャ・ウィアー。いかにも弱そうな容姿で踊りながら迫ってくる姿は、なるほど凄味がある。

 先の読めない展開のなか、誰が犠牲になるのか、助かるのか。グイグイと惹きつけられる。楽しい仕上がりである。