『ブルーピリオド』は感動で胸が熱くなる、傑作コミックの実写映画化!

『ブルーピリオド』
8月9日(金)より、TOHOシネマズ日比谷、丸の内ピカデリー、新宿バルト9ほか全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
©山口つばさ/講談社 ©2024 映画「ブルーピリオド」製作委員会
公式サイト::blueperiod-movie.jp

 秀抜なストーリー、みごとなアイデア。近年輩出するコミックはいずれも特筆すべきものが多い。映像化作品が増加するのも頷ける。

 2019年のマンガ大賞をはじめ、数々の漫画賞に輝いた山口つばさの「ブルーピリオド」はとりわけ注目された作品。絵を描くことに情熱を傾ける高校生の一途な姿を描き出して、多くのファンの心を掴んだ。

 これを原作にして、実写の青春映画に仕立てたのが本作ということになる。映画化にあたっては原作者自身から「無理に原作に寄せようとするのではなく、実在する人物のリアリティを大切にしてほしい」との要望があったという。この言葉に力を得て、脚本はアニメーション版も担当した吉田玲子。劇場用アニメーション『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』前後章の脚本で好調さをアピールしたが、本作でも勝るとも劣らない。美術の魅力に惹きこまれ、ひたすら情熱を傾け、努力するヒーロー像を好もしく浮かびあ上がらせる。

 監督は荻原健太郎。アメリカ・カリフォルニア州で映画を学び、『東京喰種 トウキョウグール』(2017)や『サヨナラまでの30分』(2020)などを手がけ、CFやMVの経験のある監督だが、本作ではストレートに絵を描くことの素晴らしさ、作品を生み出すことの喜び、苦しみを紡ぎだす。

 キャスティングも新鮮だ。『ゴールデンカムイ』などで躍進目覚しい眞栄田郷敦を抜擢し、高橋文哉、板垣李光人、桜田ひより、中島セナ、秋谷郁甫などの新鮮な顔ぶれが脇を固める。石田ひかり、江口のりこ、薬師丸ひろ子が押さえになってドラマを締める。みごとな人選というしかない。

 矢口八虎は成績優秀、まわりの空気を読みながら器用に生きることを身上としている。ある日、「わたしの好きな風景」という課題に対して、早朝の青い渋谷の風景を思うままに描くことにする。

 絵を描くことを通して、自分自身を素直にさらけ出した八虎は、その魅力に惹きこまれ、絵画を続けるという強い思いに取り憑かれる。単純に大学に進むよりも美術を極めたい。正解のないアートを目指し、自分らしくあるために彼は東京藝術大学絵画科に突き進む。八虎の周りには同じ志の多彩な若者たちが集まってくる。

 八虎は親の反対を押し切って志望を貫くことができるだろうか――。

 器用に生きることで世の中を渡ってきた少年が絵を描くことに単純に惹きこまれ、自分らしさをどのように表現するかを模索していく。その姿はまことに好もしい。普通に大学に行ってほしい親をいかに熱意で押し切るか。さらにいえば、そこまで頑張っても正解が約束されているわけではないのだ。

 それでも武骨に一途に望む道に進もうとする主人公の姿は無条件に好もしく映る。他人にとやかく指図されることをものともせずに、自分らしくあろうと努める姿はまことヒーローと呼ぶにふさわしい。その懸命な姿に寄り添うようなストーリーに拍手を贈りたくなる。荻原健太郎の素直な演出に応えて、八虎役の眞栄田郷敦をはじめ、高橋文哉、板垣李光人、桜田ひよりなどが個性的なキャラクター群像を好演している。

 見終わった後に爽やかな気分に浸れる。こういうストレートな青春ドラマがむしろ新鮮に映る。