『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』は、今も囁かれる噂を題材にしたロマンチック・コメディ。

『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』
7月19日(金)より全国の映画館で公開
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト::https://www.flymetothemoon.jp

 アポロ11号の月面着陸から55年、近年、宇宙覇権をめぐって、各国が再びしのぎを削っている状況のなか、月面着陸にまつわるとある「噂」が未だに根強く語り継がれている。月世界の映像があまりにシュールだったもので、地球でつくられたフェイク映像ではないかとの「噂」が幅広く流布されたのだ。

 もちろん、アメリカ政府は一笑に付したが、未だに陰謀好きの懸念を払拭できるまではいっていない。本作はこの「噂」を題材にしつつ、素敵にチャーミングな愛の物語に錬金させてみせる。未だアメリカが希望を信じていた20世紀後半を背景に、心に沁み入るエンターテインメントに仕上げてみせた。ロマンチックにしてユーモアを散りばめた、素敵なラブストーリーとなっている。

 時代は1969年、宇宙開発でソヴィエト連邦に後れを取ったため。NASAは初の有人月面着陸を成功させようと懸命だった。

 辣腕で知られるPRのプロ、ケリーは政府の大物を通して、半ば強引にNASAのPRを命じられる。彼女は資金調達、イメージアップに関する抜群のアイデアを次々と実行に移す。

 一方、彼女の行動を苦々しく見守るのはNASAの発射責任者コール。どこまでも真面目、誠実な彼に海千山千のケリーもいつしか惹かれていく。だが、月面着陸に関して、失敗を許さない政府はとある計画を立て、ケリーに実行を命じた――。

 ベトナム戦争がますます泥沼化し、明るい話題として宇宙に希望を求めた当時のアメリカ。まだ明日に希望があると信じていた時代を背景に、あの「噂」を肴に、みごとな脚本を書き上げたのはモデルとしても知られるローズ・ギルロイ。

 当初、ディーズ・ピクチャーズを設立したばかりのスカーレット・ヨハンソンはプロデューサーとしてのみで参加するつもりだったが、あまりの脚本の素晴らしさに、主演を決断したという。タフで強くて、しかし愛すべき一面を持ちあわせるヒロイン像は彼女にとっても稀有な出会いだった。

 監督はテレビ界で数々のヒットを誇るグレッグ・バーランティ。当時の記憶、雰囲気を縦横に映像に取り入れながら軽快なストーリーテリングをみせる。ユーモアとロマンチズムを盛り込みながら、時代の空気をきっちり反映させている。なによりラブストーリーとしてきっちり成立させているあたりが巧みである。

 作品に惚れ込んだだけのことはあって、ヨハンソンの色香が作品をさらに華やかなものしている。強いだけではない女性の奥行きをさらりと演じて、女優としての円熟ぶりを画面に焼きつけている。

 さらに相手役が『ホワイトハウス・ダウン』などでタフさを披露した、武骨なチャニング・テイタムなのだから、ヨハンソンとは好対照。まさにセクシーさも加味された共演ぶりなのだ。

共演は『ヴェノム』のウディ・ハレルソン、『アイリッシュマン』のレイ・ロマーノなどなど達者な俳優たちが結集している。

 しなやかで強いヒロインと実直で一途なヒーローがうっとりするような恋を披露する。嬉しくなるようなアメリカン・エンターテインメント。お勧めしたい所以である。