『密輸 1970』は往年の日本B級アクションをほうふつとする、海女主導の痛快活劇!

『密輸 1970』
7月12日(金)より、新宿ピカデリー、グランドシネマサンシャイン 池袋ほか全国ロードショー
配給:KADOKAWA、KADOKAWA Kプラス
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公式サイト:https://mitsuyu1970.jp/

 かつて昭和30年代前半、日本映画界に海女を主人公にした作品が何本もつくられた。『海女の戦慄』や『海女の岩礁』、『海女の化け物屋敷』といった作品群で、前田通子や三原葉子、筑波久子、万里昌代などのグラマラスな女優が妍を競った。内容的にはスリラーあり、サスペンスありの娯楽仕立てで、水中の美女、海女姿が見せ場になっていた気がする。その後、NHKテレビ小説「あまちゃん」で海女のイメージも広がった。

 本作は『ベテラン』や『モガディシュ 脱出までの14日間』を送り出した韓国映画界の匠、リュ・スンワンの2023年大ヒット作。海女たちを主人公に据えた女性主導のアクションだ。興行面でも批評面でも高い評価を受けている。

 始まりは、プロデューサーのチョ・ソンミンがロケハンのために訪れた都市の博物館で、偶然1970年代に行なわれていた海洋密輸の資料を見いだしたことにある。次回作の脚本を検討していた監督はたちまちその企画に魅せられたという。

 1970年代という時代を背景に、海洋密輸に携わった海女たちに焦点を当てるアイデアに監督は夢中になり、キム・ジョンヨン、チェ・チャウォンとともに脚本を執筆。女性同士の友情と憎しみを前面に押し出した、痛快ストーリーに仕上げた。なにより時代を1970年代に設定したことで当時のファッション、ヒット曲が雰囲気を盛り上げている。監督の軽快な語り口が疾走感に溢れ、時にコミカル、痛快味満点。本国で大ヒットしたのも頷ける。

 出演は『国家が破産する日』のキム・ヘス、『人生は、美しい』のヨム・ジュンアという人気女優を中心に個性的な顔ぶれが揃っている。『モガディシュ 脱出までの14日間』のチョ・インソン、『スタートアップ!』のパク・ジョンミン。さらに『シークレット・サンシャイン』のキム・ジョンス、『別れる決心』のコ・ミンシまで芸達者が居並ぶ。

 1970年代、韓国西海岸のとある漁村。豊富な海産物に恵まれ、海女たちは素潜り漁で生計を立てていた。リーダーのオムと奔放なチョンは堅い信頼関係で結ばれていたが、化学工場が垂れ流した廃棄物のためにアワビが死滅してしまう。

 困窮した彼女たちは密輸ブローカーの誘いに乗って、外航船が投じた密輸品の回収をはじめる。首尾よく成功し、次は金塊の引き上げに挑んだが、税関の監視船に遭遇し、オムの父と弟が死亡。チョンだけが逃げ延び、オムは刑務所送りとなる。

 2年後、密輸品の洋服で商売していたチョンは裏社会の密輸王に脅され、新たな密輸ビジネスを提案。慣れ親しんだ漁村に戻って、かつての仲間たちに声をかけた。彼女のことを裏切者と考えていたオムを説得し、新たなミッションに乗り出した――。

 理屈抜きの面白さといえばいいか。どこか懐かしいファッショに身を包んだ男女が、腹を探り合い、騙し合う。犯罪映画特有のサスペンスと女性同士の葛藤を絡め、スピーディな演出に酔わされるばかり。決して重苦しくなく、爽快にストーリーが展開する。韓国の懐メロも馴染みはないが、親しみを覚える。

 韓国の海女たちも日本と変わらない。後味もいい、これは意外な拾い物である。