『恋するプリテンダー』はオーストラリアを舞台にした無邪気で憎めないラヴ・コメディ。

『恋するプリテンダー』
5月10日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト:https://www.koipuri-movie.jp/

 最近はコンプライアンスの問題で、心の底から笑えるコメディが少なくなってきた。滑稽さを笑う、他者を笑うという行為はますます制約されてきている。最近ではカリカチュアされたアニメーションの世界ぐらいしか心置きなく笑えない。

 本作はひさしぶりに無邪気に徹したラヴ・コメディである。登場人物はいずれもシンプルで憎めない。しかも題材がおバカな恋の駆け引きなのだからシリアスになりようがない。アメリカで昨年ホリデーシーズンに公開されるやいなや、幅広い男女から熱烈に支持された。予想をはるかに超える人気ぶりに、令和のロマンチック・コメディ史上ナンバーワンのヒットと謳われた。

 金融マンのベンとロースクールに通うビーは出会って、互いに最高の相手と確信したが、お互いの我の強さが災いして一気に憎しみあう関係になってしまう。

 だが運命は姉たちの結婚式でふたりを出会わせた。オーストラリアのシドニーで、ふたりはお互いの事情のために恋人のフリをする羽目になる――。

 ボーイ・ミート・ガールのパターンをひねって、最初から最高のパートナーと判っているのにいがみ合う展開。原案はテレビ界で実力を蓄えたイラナ・ウォルパート。これをもとに、『小悪魔はなぜモテる?‼』や『ステイ・フレンズ』、『ANNIE/アニー』などのヒット作で知られるウィル・グラックが、ウォルパートとともに脚本を書き上げ、軽快な語り口でドリーミーにしてユーモアいっぱいの愛を浮かび上がらせていく。

 なにより、明るく陽気なシドニーの街角をいかんなく切りとりながら、コミカルでロマンチックなストーリーを育んだのが成功の要因だ。どこまでも影のない街並み。輝かんばかりのオペラハウスやビーチを巧みに織り込みながら、他愛のない恋の駆け引きで見る者を楽しませて止まない。どこまでも陽気でユーモアに溢れた仕上がりである。

 もちろん、ヒットの要因は、フレッシュスターの競演にもある。法律を学んでいるヒロインには、クエンティン・タランティーノの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で注目され、テレビシリーズ「ユーフォリア/EUPHORIA」でブレイクを果たしたシドニー・スウィニーが抜擢されている。コミカルな演技も得意で、キュートな表情とグラマラスな肢体で、今や人気の女優である。

 さらにベンには『トップガン マーヴェリック』でハングマンを演じて、一躍スターダムに駆け上がったグレン・パウエルが起用され、爽やかなヒーローぶりを発揮している。引き締まった肢体とハンサムな顔立ち。アクションでもコメディでもこなせる起用さをみせる。

 ふたりを支える共演陣も凝っている。『ベスト・フレンズ・ウエディング』のダーモット・マローニー、『F/X 引き裂かれたトリック』のブライアン・ブラウンという懐かしいスターたちが顔を揃える。加えて『バービー』のアレクサンドラ・シップ、ラッパーのガタまで、多彩な顔ぶれが揃っている。

 ハリウッドの次代を担うシドニー・スウィニーとグレン・パウエルの魅力が十全に活かされた仕上がり。アメリカの熱狂も頷ける、愛すべきコメディだ。