『ARGYLLE/アーガイル』は思わずニヤリとさせられる、弾けたセンスが横溢する痛快アクション!

『『ARGYLLE/アーガイル』
TOHOシネマズ日本橋、TOHOシネマズ日比谷、109シネマズ プレミアム新宿、新宿バルト9、渋谷シネクイントほかにて全国ロードショー絶賛公開中
配給:東宝東和
©Universal Pictures
公式サイト:https://argylle-movie.jp/

 イギリスには伝統的に弾けたコメディが生まれる土壌がある。

 階級社会が育んだものか、意地悪なユーモアで権威を嘲笑うことが得意だ。その流れはモンティ・パイソン軍団に繋がり、エドガー・ライト、サイモン・ペッグ、ニック・フロストたちの生み出した作品群もその範疇に入る。

 一時期やたらにクローズアップされたガイ・リッチーもブラックなストーリー展開と疾走するユーモアで人気を博した。彼と組んでセンスを磨いたのが、本作の監督マシュー・ヴォーンということになる。『キック・アス』や『キングスマン』シリーズのヒットなどで知られるヴォーンは誇張したアクションを駆使してひたすら痛快に走りぬく。文句なしに痛快な世界を構築することで人気を博している。

 ヴォーンはコロナでロックダウンとなった2020年、暇に任せて家族と映画鑑賞を行なった。古今東西の作品を見るなかで、ティーンの娘たちや妻が喜んだのはロバート・ゼメキスの『ロマンシング・ストーン/秘宝の谷』とアルフレッド・ヒッチコックの『北北西に進路を取れ』だった。

 その記憶が鮮烈だったのだろう。『ワンダーウーマン』の脚本に参加したことのある俳優のジェイソン・フュークスとともに本作の脚本を執筆。奇想天外、ユニークなスパイ・ストーリーに仕立て上げた。

 世界を股にかけるスパイを主人公にした「アーガイル」シリーズを書いて人気を博すエリー・コンウェイは米国の田舎町で暮らしている。

 ある日、エリーは愛猫アルフィーとともに、気分転換の旅に出ようとする。すると目の前の席に座った男がスパイと名乗り、彼女に襲い掛かってきた暗殺者を撃退した。

 訳の分からぬまま男と行動を共にすることになったエリーは、自分の書いた「アーガイル」最新作が細部に至るまで現実の諜報世界を正確に書きこんでいたため、諜報組織ディヴィジョンが彼女に暗殺指令を出したと聞かされる。

 にわかには信じがたい話だが、生命を狙われているのは事実。彼女は助けてくれた男とともに真実を探るべく行動を共にする。やがて彼女には驚愕の真実が待ち受けていた――。

 エリーは「預言者」なのか、という興味で引っ張りながら、なるほどと納得のいく説明が明かされる。まこと巧みなアイデアと展開である。

 その功績はキャスティングに負うところが大きい。エリーの小説世界ではヘンリー・カヴィルがアーガイル役で相棒にはジョン・シナというアクション主導、スケールの大きな世界が映像化される一方、現実世界ではエリー自身は中年おばさん体型のブライス・ダラス・ハワードが起用され、助けるスパイ役に個性派だけどしょぼいサム・ロックウェルが選ばれている。『ジュラシック・ワールド』のヒット作を誇るダラス・ハワードに、『スリー・ビルボード』でアカデミ助演男優賞に輝いたロックウェル。この芸達者同士の組み合わせが本作をさらに楽しいものにしている。

 加えてテレビシリーズ「ブレイキング・バッド」ブライアン・クランストン、『ビートルジュース』や『ホーム・アローン』シリーズが忘れ難いキャサリン・オハラ。さらに『アトミック・ブロンド』のソフィア・ブテラに加えてサミュエル・L・ジャクソンまで顔を出す。人を食ったゴージャスな顔合わせという他はない。

 仕掛けが明らかにされれば一気呵成。スパイ・アクションの正攻法を行く問答無用のクライマックスが待ち受けている。ヴォーンの洒落っ気、大胆な語り口に拍手を贈りたくなる。シリーズ化されればいい。エンターテインメントの王道、楽しみに待ちたい。