『ダム・マネー ウォール街を狙え!』はアメリカでコロナ禍で起きた痛快な実話コメディ!

『ダム・マネー ウォール街を狙え!』
2月2日(金)よりTOHO シネマズ 日比谷、kino cinema新宿、シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー
配給:キノフィルムズ
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公式サイト:https://dumbmoney.jp/

 ふり返ってみると、コロナ禍は人間社会に決定的な影響を与えた。

 大きかったのは未知の病を恐れるあまり、人と人との関係に壁を作ってしまったことにある。親しく接することが憚られ、人と会うこともままならない状態が長く続いた。一方で在宅ワークが定着し、会議もモニターを通して行われるようになったが、人と接しないフラストレーションは溜まる一方となった。“孤”でいることの不安はネットを通しても解消できるものではない。

 こうした期間では、胸のすくような出来事により拍手を送りたくなる。皆が外に出かけずにモニターばかりを注視していたこともあってひとつの出来事に注目が高まったのだ。

 本作が題材にしたのは2020年のコロナ禍アメリカで話題を集めた”ゲームストップ株騒動”。ひとりの平凡な金融アナリストが海千山千の禿鷹ヘッジファンドを向こうにまわし、声なき庶民たちの支持のもとで驚くべき結果をもたらしたストーリー。まさに痛快を絵に描いたような展開となっている。

 その背景には一部の富裕層に支配されているアメリカの分断があり、あくせくと働くしかない庶民層の思いが反映されている。『ラースと、その彼女』や『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』、『クルエラ』で知られるクレイグ・ギレスピーが、コロナ禍で成人した息子と暮らすうち、“ゲームストップ株騒動”を知ることになった。この騒動をまとめたベン・メズリックのノンフィクションをもとにローレン・シューカー・ブラムとレベッカ・アンジェロのコンビが脚色。庶民のスピリットとパワーを称えるストーリーに仕上げてみせた。

 ストーリーのユニークさに惹かれてクセのある俳優たちが一堂に介することになった。主人公の金融アナリスト、キース・ギルには『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』の演技が忘れ難く、『フェイブルマンズ』でも名演をみせたポール・ダノ。共演には「サタデー・ナイト・ライブ」出身のピート・デヴィッドソン、『フルメタル・ジャケット』の狂演が凄まじかったヴィンセント・ドノフリオ、テレビシリーズ「アグリー・ベティ」のアメリカ・フェレーラ、『イン・ザ・ハイツ』のアンソニー・ラモス、『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』など異彩を放ったセバスチャン・スタン。さらに『ダイバージェント』シリーズのヒロイン、シャイリーン・ウッドリーに、『フェイブルマンズ』にも顔を出したセス・ローゲンまで錚々たる陣容だ。

 2020年マサチューセッツのブロックトンに住む平凡な金融アナリスト、キース・ギルはネット掲示板でローリング・キティを名乗り、フォロワー向けに株式投資の番組を発信している。

 彼は全米各地の実店舗でゲームソフトを販売しているゲームストップ社を擁護していた。ゲームのオンライン販売によって業績は最悪の状況だったが、ギルは分析した結果、同社が過小評価されていると結論付け、断固支持を宣言する。

 ゲームストップ社の低迷は、業績ばかりでなく大手ヘッジファンドの策略も絡んでいた。同社を支持する個人投資家の金を巻き上げようと、さらなる株価下落を見込んでいた。

 だが、ギルの誠実な配信は多くの個人投資家の心を動かし、株価はじりじりと上昇。ヘッジファンドが慌てる事態に突入していく――。

 クレイグ・ギレスピーは巧みにカリカチュアしながら、ヘッジファンドのあくどいやり方に対抗する庶民の抵抗を称える。あまりにうまくいきすぎるきらいはあるが、これが実話の映画化となれば文句がつけようがない。クレスビーはアメリカに深く根差している、持てる者と持たざる者の分断を基本に浮かび上がらせながら、庶民の庶民なりの対抗手段を紡ぎだす。深刻にならずにあくまでもユーモラスに強欲金持ちに一泡吹かせる。孤の痛快さが本作のいちばんの魅力だ。

 出演者も主役のポール・ダノを中心に巧みな演じっぷりだ。普通の感性の庶民が誠実にことを進めればスポットライトを浴びることもある事実を爽やかに演じている。ギルを支持する個人投資家を印象的に演じるアメリカ・フェレーラやアンソニー・ラモス、あくどい資産家を演じるヴィンセント・ドノフリオ、セバスチャン・スタンまでが気持ちよさそうに演じている。キャスティングのみごとさも特筆ものだ。

 SNS時代に起きた、正直者でも株で成功できた稀有な実話。爽やかに笑えるコメディ快作である。