『哀れなるものたち』はヨルゴス・ランティモスが描く、過激で痛快な女性の一代記。

『哀れなるものたち』
1月26日(金)より、TOHOシネマズ日本橋、TOHOシネマズ日比谷、109シネマズ プレミアム新宿ほか全国ロードショー
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.
公式サイト:https://www.searchlightpictures.jp/movies/poorthings

 オリジナリティを重んじる分野では、唯一無二というか、他人と異なる個性の持ち主が脚光を浴びがちだ。個性的なものすべてが素晴らしいとはいえないが、なかにはこれまでのセオリーを塗り替えるような作品も出てくる。

 個性が百花繚乱の現在の映画界において、もっとも話題を集めている存在といえば、ギリシャ・アテネ出身の50歳、ヨルゴス・ランティモスだろう。

 アテネの映画学校で学び、CFやPV、ダンス・ビデオなどを手掛けつつ、長編作品に転進するようになった。今どきの監督にありがちな経歴だが、ランティモスは長編作品を監督するようになってからが目覚しかった。

 日本未公開の長編デビュー作がベルリン国際映画祭で高い評価を受け、監督第3作『籠の中の乙女』はカンヌ国際映画祭“ある視点”部門のグランプリに輝いた。さらに続く『アルプス』(日本未公開)もヴェネチア国際映画祭最優勝脚本賞を獲得。英語作品の『ロブスター』ではカンヌ国際映画祭審査員賞。『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』ではカンヌ国際映画祭脚本賞を獲得している。

 極めつけはヴェネチア国際映画祭銀獅子賞(審査員大賞)に輝き、アカデミー主演女優賞受賞の成果を誇る前作『女王陛下のお気に入り』である。

 送り出した作品がいずれも映画祭で絶賛され、賞を手にしている。これこそがランティモスの只ならぬ個性を証明している。 どの作品も、およそ凡人が思いつかない独自の発想で構築され、ユーモアというには毒の強すぎる世界が映像で繰り広げられる。見る者を困惑させながら、ぐいぐいと画面に惹きこむ手法。辛辣でありあからさま。刺激的なことこの上ない。まさにランティモスの唯一無二の世界なのだ。

 どの主人公もカリカチュアされた世界のなかで、置かれた状況から抜け出そうとするが、事態は必ずしも思い通りにはいかない。世界は奇妙で不条理で、あがいても事態は決して好転しないというメッセージが映像から漂ってくる。ギリシャ社会で生まれ育ったランティモスのシニカルな世界観が見え隠れする。彼の個性を言い表すには、“奇想”ということばがもっともふさわしい。

 本作は日本でも翻訳されているアラスター・グレイの同名小説の映画化。ランティモスのさらなる洗練された映像が横溢している

 自ら生命を絶った女性ベラが、天才医バクスターの手で再び生きることになる。ただし脳が赤子と替わったせいで、美しい容姿を持ちながら、赤子同様の心の持ち主となったベラは日々の経験から事象を理解し、成長を続ける。

 その美貌に惚れた弁護士にかどわかされ、医師の家から外の世界に旅立つ。性の味を覚えたベラはさらに逞しく生き抜く。リスボンからパリを巡りつつ、彼女は体験から世界の仕組みを理解していく――。

 シュールにカリカチュアされた景色の世界のなかで、無垢な主人公が閉塞された現実社会の仕組みを知っていくストーリーである。とことんブラックでセックス描写もふんだんに描かれるが、ランティモスの演出は全然ジメジメしていない。

 世界は奇妙で不条理で、あがいても事態は決して好転しないが、人生は捨てたものじゃない。ギリシャ社会で生まれ育ったランティモスのメッセージが見え隠れする。

 目を奪うような圧巻の美術のもとで、誇張された異世界が映し出され、男社会の横暴さ、ジェンダーの問題が浮かび上がってくる。

 なによりベラの逞しさに見る者は惹きつけられる。女性の強さを体現し、ヌードも辞さない熱演をみせたエマ・ストーンに拍手を贈りたくなる。ランティモスを信頼しているのだろう。『ラ・ラ・ランド』のヒロインを演じた彼女の変貌に驚き、演技力には脱帽あるのみだ。ゴールデングローブ賞コメディ/ミュージカル部門女優賞に輝いたのも頷ける。アカデミーに期待は高まるばかりだ。

 共演はフランケンシュタインの容姿で現れる天才医役のウィレム・デフォー、弁護士役のマーク・ラファロなど、ベテラン男性陣は過剰なほどの扮装でヒロインのイメージを盛り上げる怪演をみせる。

 ランティモスの仕掛けの巧みさによって本作は、ヴェネチア国際映画祭金獅子賞に輝き、アカデミー賞ノミネートも噂されている。過激な意匠をどう評価するのか、楽しみである。