『シャクラ』は香港アクションがさらなる高みに至った、ドニー・イェンの武侠大作!

『シャクラ』
2024年1月5日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
配給:ツイン
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公式サイト:https://sakramovie.com/

 香港映画のアクションが秀でていることはつとに知られている。今でこそVFXやCGを併用しているが、ワイヤーワークを駆使した殺陣の素晴らしさは他の追従を許さなかった。世界的に注目されるようになったのはブルース・リーの頃から。以降、ジャッキー・チェンやジェット・リー、チャウ・シンチーなど数多くのスターが輩出した。

 現在、もっとも著しい活動を展開しているのはドニー・イェンだろう。香港映画は中国本土の依存が高くなるにつれてボルテージが下がってしまったが、彼の作品だけは圧倒的なアクションと殺陣で変わらぬ魅力を放っている。演じる作品も現代劇、時代劇の如何を問わず、シリアスからコメディまで、ジャンルも幅広い。

 本作はそうしたドニー・イェンが自ら製作、監督を買って出て実現させた企画。もちろん主演を引き受け、圧倒的なスケールの武侠世界を生み出した。

 香港を代表する武侠小説家・金庸の長編小説『天龍八部』の映画化。金庸の熱烈なファンの彼が、『天龍八部』の武芸者のひとり、喬峯(きょうほう)に挑む。波乱万丈のストーリーを彩る、パワフルでスタイリッシュな殺陣、スタント。闘い続ける無敵の武芸者を主人公に、剣術、打狗棒(だこうぼう)、拳の戦いの数々が繰り広げられていく。ドニー・イェンのハイスピードかつ鍛錬の賜物の技が見る者を画面に釘付けにする。多くの超人間的技が交錯する時代劇に翻弄されるばかりだ。

 舞台は宋代の中国。外敵に悩まされ、宋は不穏な空気に包まれていた頃。喬夫妻に拾われ、少林寺で武芸者に成長した喬峯(きょうほう)は、丐幇(かいほう)の幇主となって、その英雄的行為で誰からも慕われていた。

 だが、ある日、何者かに副幇の馬大元が殺害され、その犯人として馬夫人から名指しされてしまう。さらに漢民族ではなく契丹人という出自まで明かされ、裏切られたと付和雷同する人々によって、丐幇を追放される。

 自らを陥れた人間を探し出し、出生の真実をつきとめるため喬峯は旅にでる。

 しかし、彼の行く手には更なる罠が仕掛けられていた。襲い来る刺客たちをなぎ倒しつつ、喬峯は黒幕を突き止め、復讐を果たすことが出来るだろうか――。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ/天地雄覇』や『ゴッド・ギャンブラー 完結編』などで知られる香港の匠、バリー・ウォンを製作に引き込み、ドニー・イェンはあくまでも独自の金庸世界を映像化せんとした。必然的にアクションに力点が置かれたのはいうまでもない。

 アクション監督に『るろうに剣心』で熱い注目を浴びた谷垣健治を起用したのはその表れ。ドニー・イェンの右腕といわれる谷垣は時代劇の経験があまりなく躊躇したというが、強い要望に応えて参加することになった。さらに自らのアクション・チームのメンバーを擁してこれまでの時代劇を超える空前絶後の殺陣、スタントで勝負している。加えてVFX、CGも抵抗なく取り入れ、ひとりの英雄の戦いに満ちた軌跡を描き尽してみせる。さすがに監督もしているだけあって、アクションシーンが十分以上に尺を取り、これでもかこれでもかと映像で知らしめる。さすがにドニー・イェン、アクションの凄まじさは群を抜いている。

 ドラマ部分においても決して手抜きはしていない。波乱に富んだ主人公の自分探しを軸に、ラブストーリー的な要素をおりこみ、さらに複層的な構成にしている。冒頭から慌ただしい展開に面食らうかもしれないが、語り口に慣れるにつれてその魅力に惹きこまれていく。金庸のドラマの面白さにただただ脱帽するばかりだ。

 ドニー以外の出演者はあまり馴染みはないが、いずれも芸達者揃い。女優陣の美しさは特筆ものだ。

 本作の最後をみると、次なる作品の公開が待ち遠しくて堪らなくなる。それにしてもドニー・イェンは掛け値なし、(宇宙一といわれているらしいが)唯一無二のアクション俳優だ。面白い!