ホラー映画、スラッシャー映画には話題性を煽る要素が必要だ。名作のリメイクとか、「全米で失神者続出!」の惹句などは何とか差別化せんとの思いの表れだ。
本作の場合はクエンティン・タランティーノとロバート・ロドリゲスが2007年に送り出した『グラインドハウス』に端を発する。当時、新鋭監督だったイーライ・ロスがこの作品にフェイクの予告編『感謝祭』を提供した。
その後、ロスは『ホステル』や『グリーン・インフェルノ』などのヒット作を送り出し、アメリカ映画界のホラーの匠として絶大な人気を誇るに至った。彼はこの予告編のことは決して忘れていなかった。ロスは幼い頃からの親友ジェフ・レンデルとともに、アイデアを練り込み、古今のホラーを肴に長編映画の脚本を生み出した。渾身のアイデアと演出で送り出した16年ぶりの本編というわけだ。
マサチューセッツ州プリマス、感謝祭の翌日に行なわれる安売りイベント“ブラック・フライデー”開始の晩、大型量販店には多くの人々が押し寄せ、一触即発の熱狂ぶり。歯止めの利かない暴徒と化した人々が、店内になだれ込み、阿鼻叫喚の騒ぎが勃発してしまう。多くの犠牲者が出る。
そして1年後、感謝祭を前に、住民がひとり、またひとりと惨殺される事件が起きた。
彼らは調理器具を凶器に殺され、豪華な料理に名前がタグ付けされていた。
地元高校の仲良しグループの一員、ジェシカは自分もタグにあることに気づく。捜査を嘲笑うかのように事件は続く。果たして犯人は誰なのか――。
ロスのアクの強い、むしろ痛快な語り口のもと、予期せぬストーリーに翻弄される。サスペンスとスリルが交錯する仕上がりだ。残酷なシーンもどこかユーモアを感じさせるあたりがこの監督の真骨頂だろう。
冒頭、暴徒の圧巻のスペクタクルを用意して、その迫力で見る者を惹きつけてからは、全編、凄まじい殺戮のつるべ打ち。ウェス・クレイヴンの名作『スクリーム』シリーズのような“パロディ青春もの”的趣向を巧みに取り入れながら、犯人捜しのミステリー的要素を前面に押し出す。陰惨なところは微塵もない。まさにスラッシャー映画の鑑といいたくなる。殺人鬼の動機もはっきりしているから、騙された感はない。まさにロスの才気が全編に満ち満ちた作品となっている。
なにより殺人鬼のマスクを、メイフラワー号でアメリカに渡った実在の清教徒の指導者ジョン・カーヴァーにしたところもミソ。ヒットしたスラッシャー映画のキャラクターは印象的なマスクが不可欠。カーヴァ―のマスクもなかなかに不気味ではある
映画の雰囲気を高めるために、それほど知名度はないが個性に溢れた顔ぶれが揃えられている。いちばん知られているのが、テレビシリーズ「グレイズ・アナトミー 恋の解剖学」で日本でも人気を誇ったパトリック・デンプシー。町を取り締まる保安官に扮し捜査の前面に立つ。加えて『インサイダー』などで注目されたジーナ・ガーション、さらにロスの『ホステル』にも出演していたリック・ホフマンも顔を出す。
もっとも中心になるのは若手軍団。歌手、インフルエンサーとしても期待されているアディソン・レイ、舞台を軸に活動するマイロ・マンハイム、抜擢されたネル・ヴェルラークなどなど、フレッシュな存在が一堂に介し、殺人鬼相手に苦闘する。
最後の最後まで安心させないのは、この手の映画のお約束。アメリカでは公開されるや、センセーションを巻き起こし、たちまちのうちに続編の製作が決定したという。年末にふさわしいかどうかはともかく、理屈抜きに楽しめる作品であることは確かだ。