かつて大自然の国オーストラリアが『マッドマックス』を生み出したように、その国のイメージとかけ離れた作品が突然に登場することがある。世界が小さくなり、地域性が薄くなった現在でも、数は少ないもののそうした作品は生まれる。
2022年に製作された本作はその好例といえる。世界一幸せな国といわれるフィンランドが送り出した、ゴリゴリのアクション。理屈抜きのエンターテインメントなのだ。
フィンランドの映画といえば、まず頭に浮かぶのがアキとミカのカウリスマキ兄弟の作品だ。リアルな世界のなかで繰り広げられるオフビートなユーモア世界は日本でもファンが多い。もちろん、兄弟のカラーがすべてではないことは判っている。
本作の監督ヤルマリ・ヘランダーの2014年作『ビッグゲーム 大統領と少年ハンター』をみたことがあったが、アメリカ映画に影響を受けたアクション主導、フィンランドの大自然を活かした子供が活躍するテンポのいいアクションに好感を覚えたことを記憶している。
もっとも、その作品はフィンランド、イギリス、ドイツの合作だったから、ヘランダーの個性は発揮しにくかったのかもしれない。幼い頃に『ダイ・ハード』や『ランボー』などのアメリカ製アクション映画に夢中になったこの監督はフィンランドならではのアクション映画を生み出すべくアイデアを温め、結実したのが本作ということになる。
もともとフィンランドはソヴィエト連邦、ナチスドイツに領土を侵略されて戦った歴史を持つ。戦いで培った不屈の精神がSISUというのだという。ヘランダーはその精神をアクション映画に活かすことを考えついた。
1944年、舞台はソ連に侵攻され、ナチスドイツに焦土にされてしまったフィンランドのラップランド。略奪と暴虐を繰り返しながら逃走するナチスドイツの軍団の前に、伝説の老兵が現われる。
金の鉱脈を見つけたばかりの老兵は、傍若無人なナチスドイツにひるむことなく、軍団に対し、敢然と戦いを挑む――。
荒涼たるラップランドを背景に、つるはし1本で敵を討つ。荒れ果てた大自然の前で、まさにマカロニウェスタンそのままにアクションが繰り広げられていく。ナチスは殺戮に倦んでいるなか、突如“絶対に死なない”老兵と戦う破目になる。くたびれた老人の容姿はしていても、ジョン・マクレーン、ジョン・ランボーも真っ青の行動をみせる。映画の進行とともにヒロイズムが際立つ仕掛けだ。ヘランダーのアメリカ映画に対する偏愛ぶりが伺える仕上がりとなっている。
主人公を演じるヨルマ・トンミラもいい味を出している。ヘランダー作品の常連で『ビッグゲーム 大統領と少年ハンター』にも顔を出していた。薄汚れた容姿でいながら、不屈の意志を感じさせる表情がなんとも嬉しい。この俳優の主演によって作品の味わいがいっそう深まったといえる。
共演はノルウェー出身、リドリー・スコットの『オデッセイ』にも顔を出していたアクセル・ヘニーにイギリス出身のジャック・ドゥ―ラン。さらにフィンランドのミモサ・ヴィツラモ、ヨルマ・トンミラの息子オンニも顔を出す。なかなかに個性派が選りすぐられている。
アクションの痛快さをぎゅうぎゅうに詰め込んだ逸品。とにかく死なない、めちゃくちゃに強いヒーローをお望みなら格好bの作品だ。まずはお勧めしたい。