鳥山明はいうまでもなく日本屈指のベストセラー・コミックアーティストである。「Dr.スランプ」や「ドラゴンボール」などの作品は、コミックのみならずアニメーション化されてさらに爆発的な人気を博した。なによりも登場するキャラクターたちの造形のみごとさ、キュートさは群を抜いている。今や知らぬ人はいない、愛されている所以である。
本作は2000年に「週刊少年ジャンプ」誌に短期集中された同名コミックの映画化。鳥山ワールドが完璧に再現されている痛快冒険譚だ。親しみのあるキャラクターに、丸みのある独特なメカニック・デザイン。さらに冒険ストーリーの王道を行く展開まで、まさに鳥山明の個性が横溢した仕上がりとなっている。
制作に当たっては、サンライズ、神風動画、ANIMAが協力して、作品を仕上げた。原作をコンパクトにまとめた脚本は『神様はバリにいる』の森ハヤシが担当し。監督には『COCOLORS』の横嶋俊久が挑んでいる。
魔物と人間が共存する世界「サンドランド」は水不足にあえぐ砂漠の世界。魔物も人間も水を求めて争いが絶えない。
そうした殺伐とした状況のなか、魔物のテリトリーに、老いた人間の保安官ラオが訪ねてくる。“幻の泉”を探すために協力を依頼してきたのだ。
サンドランドは国王政府が水を管理していた。ラオは言い伝えにある泉を探すという。この申し出に興味を示したのは、悪魔の王サタンの息子ベルゼブブだった。お目付け役のシーフを従えて、ラオと行動をともにする。
、3人は砂漠の世界を疾走する。出会うのは王国軍、強盗たち。彼らをやり過ごしながら3人は、この世界に隠された真実と陰謀を目の当たりにする。彼らは水を得ることができるのか――。
鳥山明自身、もっとも思入れの強い作品だとコメントしているが、ストーリーは冒険物語の定石を踏む。宝物を探してさまざまな経験をするうち絆が生まれていく展開もふくめ、痛快さが殺がれることもなく、安心してみていられる。持って回ったヒネリも、ブラックな笑いではなく、ストレートに鳥山明テイストの冒険を楽しめる。昨今、ユニークさを求めるあまり、冒険の醍醐味が失われてしまうアドヴェンチャーが多いなか、本作はシンプルだがエンターテインメントの本質を押さえた仕上がりである。
声の出演も田村睦心、山路和弘、チョーなど、実力者に絞り込んだキャスティング。キャラクターのイメージにふさわしい。悪ガキ風ながら、無邪気で愛すべき側面のあるベルセブブ、老保安官の凛とした凄味を漂わせるラオ、そしてベルセブブに振り回されるシーフと、それぞれがキャラクターにふさわしい容貌なのもいい。
登場するメカも鳥山明らしい、丸みを帯びたフォルムとくるからなおさら嬉しくなる。鳴り物入りの大作善としていないことも好感を覚える。鳥山吉良世界を堪能できる作品である。一見をお勧めする。