『バービー』は軽やかで楽しい、男も女も楽しめる今年屈指のミュージカル・コメディ!

『バービー』
8月11日(金・祝日)より、TOHOシネマズ日比谷、丸の内ピカデリー、109シネマズプレミアム新宿、新宿バルト9ほか、全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
©2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
公式サイト:https://wwws.warnerbros.co.jp/barbie/

 最初にアピールしておきたい。本国で劇場公開時、凄まじいヒットでトップを飾った。ただ、続く2位の『オッペンハイマー』を絡めて、英語版公式アカウントの不適切なコメントを発したことで思わぬ逆風を受けたが、間違いなく本作は2023年屈指の仕上がりである。

 女の子なら知らない者はいないファッション人形、バービーの世界を映像化するというアイデアから始まった本作は、主演のマーゴット・ロビーが映画化権を確保し、ワーナー・ブラザース映画に持ち込んで製作が実現したという。

 だが、何と言っても、脚本・監督に据えた存在が秀抜だった。監督デビュー作『レディ・バード』でアカデミー賞監督賞と脚本賞にノミネートされたグレタ・ガーウィグを起用したのだ。前作『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』では全世界の少女に愛された文学を原作に、女性たちの真摯な思いを爽やかに描き出して絶賛された。

 本作では少女たちのアイコンに挑んだ。ガーウィグが人形のメーカー、マテル社とのミーティングに参加し、複数のバービーを描くというアイデアを披歴したが、マテル社は「異なるキャラクターはいない。女性全員がバービーだ」と応えたという。その言葉を逆手にとって、バービーは女性全員と解釈したという。

 コロナの最中、彼女は『イカとクジラ』のノア・バームバックとともに脚本を練り上げていった。あくまでもカラフルで夢見るような世界のバービーランドと人間世界を舞台に、ユーモラスで弾むようなミュージカル・コメディに仕立て上げた。

 おバカな貌をしているが、もちろん込められたメッセージは深い。画一的に生きることを強いられたジェンダーを風刺しつつ、多様性を謳う。凝り固まったフェミズムではなく、男女を超えたエンターテインメントとして成立させているのだ。柔らかく説得力に富んだ姿勢にガーウィグの知性を感じさせる。

 バービーランドでは毎日がバラ色、住人たちはパーティ、ドライブ、サーフィンに興じて楽しく暮らしている。バービーはある日、突然、身体に異変が生じる。さらに楽しいことしか考えなかった頭のなかになぜか”死”の概念が生まれた。

 バービーは原因を探るべく、人間世界に向おうとする。いつも脇役のケンもついてきて、初めて人間たちの暮らしを目の当たりにすると、そこは画一化された不自由な社会だった。

 バービーの出現に、メーカーのマテル社の男たちはパニックとなり、なんとか元のかたちに収めようとする。一方、ケンは人間社会の男主導主義にすっかり毒されてしまう。ケンはバービーランドに戻って、ケンの世界づくりを始めた――。

 バービーランドには色々なバービーとケンが暮らしている。さまざまな個性の持ち主にもかかわらず、それぞれが画一的な生き方をしてきたのだ。人間社会を覗いたふたりの影響によって、夢のような世界は人間社会のカリカチュアになってしまう。そこでバービーは気づくのだ。かつてのバービーランドも人間社会も、画一的なセオリーに縛られていたことを。

 ガーウィグの語り口は軽やかで能天気のように見えるが、描いているメッセージは含蓄に富んでいる。

 出演者もバービー役のマーゴット・ロビーが素晴らしい。ピンクの衣装に身を包んで、どこまでも輝いている。無邪気で能天気な風情を漂わせながら、さらりとキャラクターの成長を表現している。自分が製作していることも影響しているか、これまでの出演作のなかで、もっとも好感度が高い。

 相手役のケンをライアン・ゴスリングが演じていることも作品の奥行きを増している。『ラ・ラ・ランド』や『ブレードランナー 2049』、『ファーストマン』など、多彩な作品歴を誇る彼が、イノセントなケンというキャラクターを嬉々として演じている。作品の魅力がいっそう増したことは間違いがない。

 カラフルな映像にふさわしく、音楽も弾けている。今年のベストテンに入ることは確実と思われる。これは必見だ。