日本の玩具をもとに、業務提携したアメリカのハズプロが1984年にストーリーと世界観を与えて販売した“トランスフォーマー”は、北米で大ヒット。派生したコミックやアニメーションが多大なた人気を博した。日本でも逆輸入され、男の子を核に今も愛されている。
車が変形してロボットとなり、敵を打ち負かす痛快な展開は、アニメーションになって加速度的に支持を集め、時代を経てスケールの大きな実写映画として製作されるようになった。
実写版映画をまず手掛けたのは『アルマゲドン』や『パール・ハーバー』などで知られるマイケル・ベイ。とにかく派手で驚きに満ちた映像重視の監督だけに、VFX、CGをふんだんに使った画面で勝負した。
ベイが信頼するアレックス・カーツマンとロベルト・オーチーの脚本のもと、第1作は大成功を収め、シリーズ化。ベイは勢いに乗って、監督として5作品を手がけることになる。とにかくインパクトのある映像が観客を呼び寄せ、人気シリーズとして現在に至っている。
2018年にシリーズのスピンオフ『バンブルビー』が製作されることになり、ベイは製作にまわり、適材適所で監督を起用する戦略に出た。1987年のサンフランシスコを舞台に、少女と、キュートな地球外生命体との絆がユーモラスかつエモーショナルに描いたこの作品は、内容的にも評価された。
本作はシリーズのこの新たな流れに沿って登場した。ベイは前作同様に製作に留まり、監督には『クリード 炎の宿敵』で才能を高く評価されたスティーヴン・ケイブル・Jrが抜擢された。脚本には『MEG ザ・モンスター』などを手がけたジョン&エリックホーバー、『フラッシュ』のジョビー・ハロルドなどが起用され、『バンブルビー』の続編的な位置づけでストーリーを構築。その7年後のアメリカを舞台として脚本に仕上げていった。
ケイブル・Jrにとっては少年期にテレビアニメーション「ビーストウォーズ 超生命体トランスフォーマー」に熱狂した経験があった。シリーズやキャラクターに対して子供時代から育んだ独自の思いを持っていた。これまでの派手な意匠に加えて、彼は映画の根本であるテンポとストーリー性により重きを置いた。本作が興行性に加えて、内容にも絶賛された所以である。
地球から遥か離れた惑星で、あらゆる星を飲み尽くす宇宙最悪の災い“ユニクロン”が力を得た。部下たちを星々に送り込んでは、宇宙を飲み尽くすべく行動に移した。
1994年の地球。ニューヨークで暮らす青年ノアは仕事を求めて歩き回るが、目ぼしい成果を上げることができない。ふと悪友のことばに乗って、車を盗もうとするが、その車がオートポットのミラージュだった。ノアは半ば拉致されるようにオートポットの一団と行動を共にする。
一方、博物館では、インターンのエレーナが古代の像から偶然、“ユニクロン”を呼び寄せるシグナルを送ってしまう。“ユニクロン”の部下の先遣隊と地球を守ろうとするオートポットとの戦いが始まる。
地球絶対の危機にオートポットに加えて、動物に変形するビーストも参加。ことここに至って、ノアとエレーナも人間代表として戦うことになる。凄まじい“ユニクロン”を阻止する手立ては果たしてあるのだろうか――。
このシリーズはヴィジュアル・インパクトを重視するあまり、語り口が冗長になるきらいがあったが、ケイブル・Jrはあくまでも作品の流れを考え、アクション・エンターテインメントとしての歯切れの良さ、テンポを重んじた。トランスフォーマーのスケールの大きな暴れっぷりをフィーチャーしながら、描写に溺れない。疾走感のある語り口を維持している。シリーズのなかでも、群を抜いた評価を受けたのはここに起因している。
もちろん、トランスフォーマーたちの胸のすくアクションは言うまでもない。映画の見せ場として、存分にアピールしながらドラマ部分も過不足なく描き切っている。主人公ノアに、は舞台の『ハミルトン』で主役を務め、『イン・ザ・ハイツ』でアピールしたミュージカルスター、アンソニー・ラモス。エレーナ役には作家としても注目される新進女優、ドミニク・フィッシュバックを起用。ふたりの人間味が作品の奥行きを与えている。
もちろん、特撮の魅力は満載されている。公開に際して、吹き替え版を強力に押し出している戦略も頷ける。子供も大人も楽しめる一編だ。