『クリード 過去の逆襲』は、過ちを自ら正すことを謳う、感動的なスポーツ・アクション!

『クリード 過去の逆襲』
5月26日(金)より、TOHOシネマズ日本橋、丸の内ピカデリー、109シネマズプレミアム新宿、新宿バルト9ほか全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
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公式サイト:https://wwws.warnerbros.co.jp/creed/

『ロッキー』は、アメリカ映画界でもっとも成功したボクシング映画だ。同時に、アメリカはチャンスの国、機会があればだれでもヒーローになれると世界に謳いあげた。

 3日で脚本を書きあげたシルヴェスター・スタローンは、ロッキーを熱演してたちまちスターダムに上りつめたし、シリーズ化されたロッキーの一代記は2006年の『ロッキー・ザ・ファイナル』まで、5作品が生み出された。時代にあわせたヒロイズムを加味することでシリーズは命脈を保った。

 そして2015年に“ロッキー・サーガ”は新たな段階に入る。父親が大のロッキー・ファンだったライアン・クーグラーのアイデアで、三流ボクサーのロッキーに機会を与えてくれたチャンピオン、アポロ・クリードの遺児アドニス・クリードを主人公にしたスピンオフを提案したのだ。クーグラーは『ブラックパンサー』シリーズの監督として高い評価を受けていた。

 もちろん、これまでに作られた『ロッキー』シリーズの世界観を護るという約束のもとで、アフリカ系アメリカ人アドニスのサクセス・ストーリーとして、目論見通り大ヒットを収めた。アポロ・クリードの隠し子アドニスがアポロの正妻に引き取られ、青年に成長。ボクシングに対する情熱が断ちがたく、父の良きライバルだったロッキーに鍛えられるうちに、ボクシングの魅力と家族というものを知る。アドニスにはマイケル・B・ジョーダン。『ブラックパンサー』で強烈な個性を残し『黒い司法 0%からの奇跡』などで、みごとな存在感を残した好漢だ。

 ライアン・クーグラーの手堅い演出のもと、作品は好感を持って迎えられ、こちらもシリーズとして船出を果たした。続く2018年の『クリード 炎の宿敵』では、アポロ・クリードを死に追いやったイワン・ドラゴの息子、ヴィクターとの因縁の対決が描かれる。この脚本にはスタローンも加わって、スリリングな仕上がりとなった。この作品ではスティーヴン・ケイブル・Jrがメガフォンを取っている。

 前2作品の好評により、第3弾に当たる本作の期待値は高まるが、これまでの『ロッキー』からの継続世界から新たな一歩を踏み出した印象だ。功成り名を遂げたアドニスは引退して愛する家族、ボクシング仲間に恵まれ幸せに暮らしていた。

 だが、クリードの前に、すべてを失ったムショ上がりの幼なじみ、デイムが現れる。

 かつては孤児院で親友の間柄のふたりだったが、クリードはデイムを置いて警官から逃げた過去があった。

 デイムは18年も刑務所生活を送り、恨みと羨望を募らせて、クリードに憎しみを燃やしていた。良心の呵責からデイムに戦う場を提供しようと努力するアドニス。恩を仇で返すごとく、デイムはクリードへの復讐を実行に移す。アドニスはもはや自分が決着をつけるしかないと感じ、デイム相手に戦いの場を設ける――。

 今回、監督を引き受けたのはマイケル・B・ジョーダン。単純なヒーロー・ストーリーで終わらせず、誰もが犯しがちな過去の過ちにどう向き合うか。人間は過ちを生み出す生物であるなら、その過去に対峙することがその人間の資質ではないかと語りかける。決して能天気なストーリーではない。

 数多くのアクション映画に出演しているだけあって、メリハリの利かせ方は半端ではない。クライマックスの試合シーンの迫力はこのシリーズの売り物ではあるが、本作での思いのこもった殴り合いは思わず息を呑む。

 これまでのように『ロッキー』シリーズの威を借りた構成ではなく、まさに『クリード』シリーズの新たなる旅立ちだ。