今から22年前に登場したきびきびしたカー・アクションが、時ならぬヒットを記録したことからシリーズ化され、作品の数を増すごとに個性的な豪華キャストをどんどん加えて、世界に冠たる人気シリーズに成り上がる。
『ワイルド・スピード』シリーズのサクセス・ストーリーを最初から見ていると、つくり手たちの時代を読む力、ヒットメーカーとしての資質に驚かされる。なにより本数を重ねて世界が飛躍的に広がっても、友情、愛、ファミリーの絆といった作品の核となる部分は継承されている。単純といわれようとも、ここが変わっていないから、ファンは支持するのだ。
もちろん、作品を重ねるなかで、変化もある。主演のポール・ウォーカーは交通事故で早逝したし、キャラクターたちが演じる世界も年月に沿って大きく変わってきた。主演のヴィン・ディーゼルが作品を増すにつれて剣呑さから精悍な表情に変わったのがその証明。このヒーローはシリーズを跨いで、愛する人と家族を形成していったからだ。他のメンバーたちも同様に紆余曲折、さまざまなドラマを彩っていった。
そうして10作目を数える本作は集大成といっていい。ヴィン・ディーゼル演じるドミニク・トレットはロサンゼルス郊外で子供と妻、家族に囲まれてゆったりと暮らしている。ファミリーとしての幸せを満喫しているときに危機の報が、仇敵サイファー(シャーリーズ・セロン)からもたらされる。
今から12年前、ドミニクとファミリーがブラジルのリオ・デ・ジャネイロで麻薬王レイエスの金を強奪したとき、レイエスの息子ダンテはドミニクとファミリーに復讐を誓った。ダンテは彼らを徹底的に苦しめることを誓う。殺すのは簡単だ、徹底的に苦しみを味わせててやる。
その情報から間もなく、ドミニク抜きで決行するはずだったローマで企てられた計画が、実はダンテの仕組んだものと判明する。ドミニクが急行するが、ダンテはローマの街を破壊し尽くす。
彼の息子リトル・ブライアンにも危機が及ぶことを恐れて、ドミニクは弟ジェイコブに助けを求める。
リオ・デ・ジャネイロに向かったドミニクは敵がダンテであることを確信するが、誰かを犠牲にして仲間を助ける状況に追い込まれる。ダンテはドミニクの弱味を見透かしていたのだ。
さらにダンテはファミリーを分断して攻撃する挙に出る。彼はファミリーを救うことができるのか――。
映画が始まるや否や、怒涛の進行。有無を言わさずにアクション、アクションの綴れ織り。『トランスポーター』シリーズや『グランド・イリュージョン』で華麗なる映像テクニックを披露したルイ・ルテリエが監督を引き受け、スピーディかつシャープな演出を披露している。とにかく映像パワー重視で走りぬく。
脚本の『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』のジャスティン・リンと『タイタンの逆襲』のダン・マゾ―は本作の集大成的な趣向を理解した上で、本作に絡んだキャラクターたちのエピソードをきっちり織りこんでみせる。本シリーズのファンなら一目瞭然だろうが顔ぶれが半端ない。ドミニクの妻役のミシェル・ロドリゲス、ファミリー役のタイリーズ・ギブソン、クリス・”リュダクリス”・ブリッジス、ナタリー・エマニュエル、サン・カン。前作でドミニクと争ったジェイコブ役のプロレスラーでもあるジョン・シナ。ドミニクの妹役のジョーダナ・ブリュースター、
まだまだいるぞ。かつてファミリーを敵にまわしたデッカー・ショウにはジェイソン・ステイサム、母親役にはヘレン・ミレンも顔を出す。秘密諜報員には親父ほどの個性はないが、今後楽しみなスコット・イーストウッド。加えて『キャプテン・マーベル』のブリー・ラーソンが秘密諜報員役で新たな個性をみせる。
だが何と言ってもの迫力はダンテ役のジェイソン・モモアだ。DCコミックのスーパーヒーロー、アクアマンを演じたモモアがユーモアと残酷さ、変態性を併せ持つ仇役を快演している。ひとりでドミニク・ファミリーを受けて立つだけの迫力が画面からにじみ出ている。
ストーリーの詳細、アクションの趣向については見てのお楽しみ。メンバーのエピソードを重視した結果、結末には驚かされたが、カメオで重要なキャラクターが登場するのも楽しい。全身筋肉氏もシリーズゆかりの女優も映像に焼き付く。これだけ豪華で贅沢な趣向も久しぶりだ。