『MEMORY/メモリー』はちょいと嬉しくなる、ハードでリアルなクライム・アクション!

『MEMORY/メモリー』
5月12日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
配給:ショウゲート
©2021, BBP Memory, LLC. All rights reserved.
公式サイト:https://memory-movie.jp/

 リーアム・ニーソンをアクションスターと呼ぶのには、あのペタペタした走り方を見るにつけ抵抗がある。『シンドラーのリスト』や『マイケル・コリンズ』など、骨太の作品で発揮する演技派俳優と形容する方がしっくりくるのだ。

 もちろん、リュック・ベッソンと組んだ『96時間』3部作で、娘を救う元凄腕の諜報員を演じて新生面を開発したことは記憶に新しい。戦う親父という路線は『スノー・ロワイヤル』などでも発揮された。アクションのプロというよりは、タフさを前面に押し出した方が、ニーソンに似合うようだ。

 だが、2022年に製作された本作では、ニーソンは凄腕の殺し屋を演じる。そこには当然ながら、彼の実年齢にふさわしい設定が加えられている。70歳を超えた彼に、アルツハイマー症に罹った殺し屋という要素を加えたのだ。クライアントからはトップの殺し屋と思われているのだが、本人は次第に記憶さえもあやふやになりつつある。兄は完全にアルツハイマーとなって病院に入院中。いつ発症するか怯えつつ、引退しようとするが、クライアントは納得しない。

 これが最後と引き受けた仕事はふたり。だがふたり目は彼が決して殺さないと誓っていた子供だったため、怒りに燃えて契約を破棄。どうやらアメリカ国内に君臨する人身売買組織が絡んでいるらしい。進行する病を押さえながら、彼は黒幕に対して牙をむく。

 一方、殺し屋の犯した事件に対して、FBIのチームは懸命に捜査に当たる。彼らもアメリカに不法に蔓延る人身売買組織に挑み、政財界にまで波及する組織の巨大さに辟易としていたのだ。殺し屋の反逆に、事件は思わぬ様相を呈していく――。

 本作は2003年に製作されたベルギー作品『ザ・ヒットマン』に惹かれた監督、マーティン・キャンベルがアメリカに舞台を移し、脚本家のダリオ・スカーダペインとともに細かく設定を変えて生み出したリメイク。スカーダペインはテレビシリーズ「ブリッジ ~国境に潜む闇」などに参加した骨太の脚本家で、本作もテキサス州エル・パソとメキシコ北部の国境に舞台を移し、生々しくリアルな迫力を作品にもたらしている。

 キャンベルといえばニュージーランド出身、アクションには定評がある。1985年のテレビ映画「刑事ロニー・クレイブン」で熱い注目を集め、『ノー・エスケイプ』や『マスク・オブ・ゾロ』や『バーティカル・リミット』など、SFから時代劇、山岳アクションまで、さまざまなジャンルで才能を発揮してきた。

 それからアクションの王道『007/カジノ・ロワイヤル』に至って、演出の腕を極めた印象だ。

 本作では不法移民の骨まで絞り尽す、メキシコ組織、アメリカ政財界の存在を浮かび上がらせ、あくまでもエンターテインメントの枠組みを守りながら、アクションの醍醐味を満喫させてくれる。アルツハイマーに苦しむニーソン演じる殺し屋にこれ以上ない見せ場を用意しながら、決してスーパーヒーローに仕立てていない。アクションとして、リアルに結末をつけて、見る者に深い満足をもたらしてくれる。決してだれることなく、メリハリをきっちりつける。その演出ぶりに脱帽したくなる。

 なによりニーソンの頑張りには嬉しくなるが、彼を支えた共演陣がまことに素晴らしい。殺し屋を追うFBIエージェントには『L.A.コンフィデンシャル』のガイ・ピアース。多少老けたものの正義に燃える一匹狼を好演している。さらに『アサシンズ 極限の92分間』のハロルド・トレス、『ザ・フォーリナー/復讐者』のレイ・フィアロン、『R R R』 のレイ・スティヴンソン。そして『マレーナ』や『アレックス』などでおなじみのモニカ・ベルッチまで、クセのある顔ぶれが並ぶ。

 アクション好きには応えられない作品。リーアム・ニーソンの老いたるヒロイズムを実感されたし。ハードボイルな味わいがいい。