『ブレット・トレイン』は日本のベストセラー小説をアメリカ風に映画化した、ハチャメチャ痛快アクション!

『ブレット・トレイン』
9月1日(木)より、TOHOシネマズ日比谷、丸の内ピカデリー、新宿バルト9ほか全国ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト:https://www.bullettrain-movie.jp/

 日本で抜群の人気を誇る作家、伊坂幸太郎の小説は、映像意欲をそそるのか数多く映画化されてきた。『ゴールデンスランバー』などは日本ばかりか、韓国でも映画化されて高い評価を受けた。知的な面白さ、ユーモアに富んでいて、文章に軽味があり、決して判りにくくない。音楽の造詣の深さをさりげなく文章に散りばめるあたりも含め、お洒落な印象もあって、人気の高さも伺える。

 その伊坂幸太郎の小説がアメリカ人の手で、アメリカ映画として登場したのだから驚きだ。それも主演がブラッド・ピットで、どこまでも弾け切った問答無用のアクションに仕立ててある。原作となったのは300万部を超えるベストセラー「マリアビートル」。東京・盛岡間の東北新幹線内で殺し屋たちが乗り合わせ、予断を許さない展開となるストーリーだ。

 この原作をもとに脚色に当たったのがNetflixの『フィアー・ストリート Part 2: 1978』で注目されているザック・オルケウィッツ。日本をアニメーションのメッカ、極彩色の何でもあり異世界として捉えた彼は、東北新幹線を東海道新幹線に変更し、認知度の高い京都に壮絶なクライマックスを用意してみせる。

 メガフォンを取ったのはデヴィッド・リーチ。長年、スタント・コーディネーターとして活動し、『ジョン・ウィック』を共同監督したことから演出の道が拓けた。以後『アトミック・ブロンド』、『デッドプール2』、『ワイルド・スピード/スーパコンボ』といったヒット作を生み出して、今やアクションならば間違いない監督のひとりに数えられている。

 彼の成功は妻のケリー・マコーミックの協力が大きい。彼女はプロデューサーとしてリーチをサポートし、ふたりで“87ノース”というプロダクションを2019年に設立。『Mr.ノーバディ』や『ケイト』(Netflixで配信している、女性の殺し屋を主人公にした日本が舞台のアクション)などを製作している。

 本作はリーチ自身が満を持して監督を引き受けたビッグ・プロジェクトということになる。マコーミックのサポートのもと、リーチは出演者も古くからの盟友であるブラッド・ピットに協力を仰ぎ、アクション満載、特撮ふんだんの映像世界を生み出した。これまでの作品で培ったオフビートなユーモアを全編に散りばめつつ、アクションはキレの良さで勝負。アメリカ人の考える不思議の国・日本を豪華に再現してみせる。

 ヤクザが跋扈し、ゆるキャラも登場する弾丸列車内を舞台に、とことんツキのない殺し屋が次々と災難に遭う。リーチはおかしくも弾けた映像とスピーディな語り口に終始。これまでにない日本像を生み出してみせる。

 ピットに続く出演者も、個性に富んだ俳優を選りすぐった。Netflixの『キスから始まるものがたり』に主演して注目されたジョーイ・キング、『TENET テネット』のアーロン・テイラー=ジョンソン、『エターナルズ』のブライアン・タイリー・ヘンリー、日本から真田広之、プエルトリコ出身歌手で俳優のバッド・バニー(ベニート・A・マルティネス・オカシオ)。さらに怪優マイケル・シャノンにサンドラ・ブロックまで顔を出す。もちろん、日本が舞台なのだからマシ・オカや福原かれんなども役が与えられている。

 運の悪さでは定評のある殺し屋レディバグは復帰するために、仲間からの依頼を受ける。新幹線に乗った男からブリーフケースを奪い、次の駅で降りるという簡単な仕事だった。

 東京駅で京都行きの列車に乗ったレディバグはブリーフケースをみつけ、品川で降りようとするが、メキシコの殺し屋ウルフが襲い掛かってきた。降りることもできず、懸命に戦ったレディバグだったが、列車には殺し屋コンビのタンジェリン&レモン、毒使いの暗殺者、謎の女子学生、日本の殺し屋、さらに剣の達人までが乗り合わせていた。

 途中下車の出来ないまま、レディバグは生存本能を信じて戦い抜く。そして京都には犯罪組織のボスが待ち構えていた――。

 始まったら一気呵成。ひと時も留まることなくアクション、アクションの綴れ織り。クライマックスまで走りぬく。あくまでもアメリカ人の脳内の日本像であるから、映像は誇張とイマジネーションの世界。ビージーズの懐かしいナンバーに乗って、弾丸列車に乗り込んだら、予断のつかないアクション世界が繰り広げられる。さすがにリーチ、アクションと殺陣は熟知しているから、ひと時も緩いところはない。疾走する列車内でひたすらキレのいい死闘が紡がれていく。

 もちろんレディバグに扮するのがブラッド・ピットであるから、シリアスにはなりえない。どこまでもユーモアをたたえて、痛快さを前面に押し出す。殺陣とアクションのひとつひとつは見てのお楽しみ。多彩な趣向をお楽しみいただきたい。しかもクライマックスの趣向は口をあんぐり。とても日本では真似ができない。なんと一大スペクタクルにエスカレートする。

 ノンストップのアクションを彩る音楽も、カルメンマキから坂本九に至るまで懐かしい曲の数々が織り込まれる。日本が舞台で、ここまでハチャメチャに暴れてくれたら、いっそ痛快というものだ。まずは一見のほどを。