『トップガン マーヴェリック』はトム・クルーズの凄さが分かる傑作エンターテインメント!

『トップガン マーヴェリック』
5月27日(金)より、TOHOシネマズ日比谷、新宿バルト9、新宿ピカデリー、グランドシネマサンシャイン池袋ほか全国ロードショー
配給:東和ピクチャーズ
©2021 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.
公式サイト:https://topgunmovie.jp/

 トム・クルーズほどセルフ・プロデュースに長けた存在はいない。

 自らのスターとしての魅力を追求すべく、とことん努力を怠らない。世界的にヒットを続ける『ミッション;インポッシブル』シリーズでは、常に超ド級のアクションスタントを用意して、アクション・スターとしてのクオリティを守り抜く。そのためには骨折も厭わないのだから、脱帽する以外にない。

 さらに新たな可能性に対しても意欲的だ。少しでも魅力を感じたら、とりあえず体験してみる。ひねりを感じさせるSF、『オブリビオン』からはじまって、ハードボイルド・アクションの『アウトロー』、日本作家によるSF戦争アクション『オール・ユー・ニード・イズ・キル』、さらに実話をもとにした犯罪コメディ『バリー・シール/アメリカをはめた男』などなど、貪欲に新たな鉱脈を探しぬく。

 もちろん、自分のヒット作は大切に扱うことで知られている。

 思い出してみれば、1986年の出世作『トップガン』は、故ドン・シンプソン&ジェリー・ブラッカイマーのプロデュース能力とトニー・スコットの映像センスの賜物だった。すでに2010年あたりから続編の企画はあったのだというが、スコットがこの世を去り、ブラッカイマーも衰えを見せ始めると、クルーズが前面に出てきた。

 当初の主旨を変えて、あくまで自ら演じるキャラクター本位のストーリーに仕上げてみせた。脚本には『ミッション・インポッシブル』シリーズのクリストファー・マッカリーが加わり、監督は『オブリビオン』のジョセフ・コシンスキー。海軍の協力を得て、ジェット機の臨場感をとことん体験させる映像を確保した。またパイロットに扮する俳優は、自らもふくめジェット機のGの凄さを体験させて、迫真力を焼きつけるなど、徹底的にリアルにこだわった。

 公開はコロナ禍に阻まれる不幸に見舞われたものの、いよいよこの5月27日に公開。クルーズ印のエンターテインメントの威力は抜群で、全米でも凄まじいヒットが見込まれている。

 あくまでもクルーズ主演ではあるが、共演は『ビューティフル・マインド』のジェニファー・コネリー、『セッション』のマイルズ・テラー、『ベイビー・ドライバー』のジョン・ハムなど個性派俳優が揃っている。

 海軍パイロットのエリート中のエリート・チーム、“トップガン”のなかでも際立った技術を誇るピーター・ミッチェルこと“マーヴェリック”は、あくまでもパイロットにこだわり、現役を続けていた。

 試作機でマッハ10の壁を超えてみせたが、将来的にドローンによる戦闘を睨んでいた上層部は、意向に従わない“マーヴェリック”を退役させようとする動きがあったが、かつてのライバルで、今は上層部にいる“アイスマン”の命令で、ある特殊任務の教官に“マーヴェリック”を起用されることになった。

“アイスマン”の頼みなら従うしかない。“マーヴェリック”はエリートを自任する若者たちを教えることになるが、任務はほとんど不可能に近いものだった。そのなかには、かつて“マーヴェリック”がチームを組んでいた“グース”の息子“ルースター”もいた。息子をパイロットにしたくないという母の願いを聞いて、“マーヴェリック”は“ルースター”の海軍入りを妨害したことがあった。

 そのことを恨む“ルースター”だったが、“マーヴェリック”の操縦技術は圧倒的だった。彼は若者たちを鼓舞し、指導して、任務の遂行を図る――。

 第1作の名曲、ケニー・ロギンスの「デンジャー・ゾーン」に乗ってジェット機が空を駆けるシーンでは記憶が蘇り、みていて胸が熱くなる。“グース”役のアンソニー・エドワーズや妻役のメグ・ライアンの画像も挿入されるのだ。

 ジェット機が飛ぶシーンって本当に心が躍る。ジョゼフ・コシンスキーの語り口はシンプルでストレート、ジェット機の迫力をひたすら映像に焼きつけ、みるものを虜にする。大画面を狭しと滑空するジェット機の圧に押され、画面から目が離せない。軍の協力があったにせよ、これだけ空飛ぶことの素晴らしさを画面に焼きつけた作品もひさしぶりだ。スピードに驚き、操縦技術に舌を巻くばかり。

 もちろん、ドラマ部門もしっかり構築されている。“マーヴェリック”と“ルースター”の確執を核に置き、言い訳せずに操縦技術で若者たちを抑え込むあたりも、“マーヴェリック”のキャラクターにふさわしい。彼とジェニファー・コネリー演じる酒場の主人との恋も織り交ぜ、“マーヴェリック”の若くはないが現役感を浮かび上がらせる。こうなると、“マーヴェリック”のヒロイズムは高まる一方。必然的にミッションに参加することも期待するようになる。もちろん映画はそれを裏切らない。

 なによりも主人公を含め、若きパイロットたちが、傲慢ながら、素直で気持ちのいいキャラクターに設定されているのが嬉しい。変にこねくり回していない。彼らの心情に共感して、クライマックスでは手に汗握る展開となる。細かいことは興を殺ぐので見てのお楽しみ。クルーズ作品のなかでも群を抜いて素晴らしい仕上がりだ。

 闘病中のヴァル・キルマーが“アイスマン”を熱演しているし、トニー・スコットを追悼するクレジットも流れる。まことに情のこもった作品となった。必見である。