『ライダーズ・オブ・ジャスティス』は北欧映画の魅力をいかんなく発揮したアクション快作!

『ライダーズ・オブ・ジャスティス』
1月21日(金) より 新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
配給:クロックワークス
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公式サイト:https://klockworx-v.com/roj/

 デンマーク出身で、今や“北欧の至宝”と呼ばれるほどの人気を誇っているのがマッツ・ミケルセンだ。彼は話題を集めたサスペンス『プッシャー』3部作の最初の2作を皮切りに、『アダムズ・アップル』、『アフター・ザ・ウェディング』などに出演し、本国デンマークで俳優としての名声を得た。

 活動は本国に留まらず、『007/カジノ・ロワイヤル』では仇役ル・シッフルを演じ、『ココ・シャネル&イゴール・ストラヴィンスキー』ではイゴール・ストラヴィンスキー、『ロイヤル・アフェア』では18世紀デンマーク王室の侍医に扮するなど、数々の話題作で存在感を示した。さらに2012年に『偽りなき者』でカンヌ国際映画祭主演男優賞を受賞したことで世界にその名を知らしめた。

 最近ではテレビシリーズ『ハンニバル』の主役ハンニバル・レクターを演じ、『ドクター・ストレンジ』や『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』にも顔を出すなど、もはや活動は国際的。しかも演じる役が常に奥行きのあるキャラクターとあって、彼の演技力はますます評価されている。

 本作はそうしたミケルセンが、多くの出演作でタッグを組んできた監督アナス・トマス・イェンセンのもとで、ユニークなキャラクターに挑んだ、ブラックなユーモアを練り込んだリベンジ・アクション。一筋縄ではいかない、予断を許さない展開にグイグイと惹きこまれる仕上がりとなっている。

 しかも共演者が豪華だ。『特捜部Q』シリーズで異様な存在感みせるニコライ・リー・コースに、『セレブレーション』のラース・ブリグマン、『アダムズ・アップル』のニコラス・ブロなど、デンマークの個性派俳優が勢揃いしている。

 加えて歌も達者な若手女優アンドレア・ハイク・ガデベルグに、テレビシリーズで認められた男優グスタフ・リンド。そしてベテランの『アトミック・ブロンド』のローラン・ムラまでヴァラエティに富んだキャスティングが組まれている。

 このキャストを擁して、イェンセンが描き出すのは一風変わったクリスマス・ストーリー。ほのぼのとしたクリスマスのイメージで始めたものの、一転、ゴリゴリのリアルさのスペクタクルを用意して、どうなることかと予断を許さない。

 温もりのある家庭よりもハードなアフガニスタンの任務に生きがいを感じているマークスは妻が列車事故で亡くなったという報せを受ける。

 任務を離れ、残された思春期の娘のもとに帰った彼だが、悲しみに暮れる娘を前にすると、無力感に苛まれる。

 そんなマークスのもとに数学者と名乗るオットーと仲間たちが訪ねてくる。オットーは妻と同じ列車に乗り合わせていて、事故は“ライダーズ・オブ・ジャスティス”と言うギャング組織が、殺人事件の重要な証人を暗殺するために周到に計画した事件だと彼に告げる。

 怒りに燃えて真相を探ろうとするマークスは、ギャングのもとに乗り込むが、話よりも手が出てしまう習い性のため、殺害。妻の無念を晴らすためと言い聞かせて、オットーと仲間たちの協力を得て、復讐に身を投じてゆくが、事態は思いもよらぬ皮肉な方向に転がっていった――。

 殺人機械マークスをミケルセンがこの上なくフィジカルに表現すれば、片腕が不自由なオットーをニコライ・リー・コースが個性むき出しに演じる。ラース・ブリグマン、ニコラス・ブロが熱演するオットーとつるむ仲間たちも、いずれも社会からはみ出した変わり者たち。マークスとともに復讐を遂行するうち、次第に絆を結んでいく。

 いわばいびつなキャラクターの男たちが復讐の名のもとに集まり、次第に他者と協調することを学ぶ展開。ほのぼのと幕を開け、列車事故のスペクタクルの迫力で翻弄してから、復讐に至る。それもコミュニケーション能力のない男たちとあって、予想を超える展開に誘ってくれる。アクションの凄味、スペクタクルの迫力に引きずられ、間抜けな会話にニヤリとさせられる。ストーリーが展開するにしたがって、この変わり者集団が愛しく思えてくるから不思議だ。クライマックスの銃撃戦の緊迫感まで、ただただ惹きこまれる。アナス・トマス・イェンセンの自在な演出に拍手を送りたくなる。

 もちろんミケルセンをはじめとする俳優陣の魅力も称えなければならない。普通だとつきあいたくもない男たちの心情を浮き彫りにして、哀愁さえも漂わせるあたり、さすがデンマークが誇る俳優たちである。

 製作的にはデンマーク、スウェーデン、フィンランドの合作のかたちをとるが、なかでもデンマークのエンターテインメントの水準の高さに舌を巻く。楽しめる作品である。