『DUNE/デューン 砂の惑星』はドゥニ・ヴィルヌーヴの才能が炸裂した、感動必至の傑作SF大作!

『DUNE/デューン 砂の惑星』
10月15日(金)より、TOHOシネマズ日比谷、丸の内ピカデリー、新宿バルト9ほか全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
©2020 Legendary and Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved
公式サイト;https://wwws.warnerbros.co.jp/dune-movie/

 現在、もっとも注目している監督を問われれば、即座にドゥニ・ヴィルヌーヴの名を挙げる。フランス系カナダ人として生まれ、カナダ映画で頭角を現し、アメリカ映画に招かれても期待を超える活動を繰り広げている。とりわけ近年は『メッセージ』(2016)、『ブレードランナー 2049』と続けて、本作の監督に至るなど、SF大作が目白押し。これだけをみても、いかに映画界から嘱望されている存在であるかが分かる。

 もっともヴィルヌーヴは単にSFおたくというわけではない。どのようなジャンルにおいても、卓抜した映像感性のもと、力強く物語る才能の持ち主だ。

 世界的に知名度を高めた2010年の『灼熱の魂』では、レバノンの宗教で分断された内戦状況のなかで数奇な運命をたどることになった女性の過去の軌跡と、その子である双子の姉弟が現代に母の歩みをなぞる姿を複合的に綴っていく。ミステリアスなドラマといえるが、ヴィルヌーヴの力強い語り口と映像に漲るエモーションに圧倒されるばかり。中東の悲劇がカナダに至る過程が鮮烈に描かれていた。

 テイラー・シェリダンの脚本を映像化した2015年の『ボーダーライン』にも脱帽した。アメリカ・メキシコ国境の地獄絵図を、何処までもリアルかつ非情に徹して描き出す。アクションの凄まじさ、関わる人間たちの心情をクールに浮かび上がらせ、苦い後味が際立つ。ハードボイルドなテイストが何とも言えなかった。

 この作品の後、深遠なメッセージを内包した『メッセージ』を生み出し、あまりにも有名な作品の続編を巧みに自分の世界に換骨奪胎した『ブレードランナー 2049』と続く。いずれの作品でもヴィルヌーヴらしさが際立ち、唯一無二の個性として認知させることになった。

 そうしてヴィルヌーヴはフランク・ハーバートの古典的SF小説『デューン』に挑んだ。全6編からなる膨大なシリーズで、高い文学性と、哲学、宗教、心理学、政治、生態学に渡る内容の深さは多くの読者に大きな影響を与えた。これまでにデヴィッド・リンチが映像化を試み、テレビ映画も製作されたが、今ひとつ成功したとはいえなかった。手がける側の知性と演出力が問われる題材なのだ。

 この難物にヴィルヌーヴは10代で出会い、たちまち魅了されたという。一読した彼は大著に描かれる“自然”が真の主人公だと思い至った。その思いは映像化する時点の大きな原動力となっている。

 膨大な原作を脚色したのは、ヴィルヌーヴに加えて『プロメテウス』や『ドクター・ストレンジ』で知られるジョン・スペイツと、『ミュンヘン』や『アリー/スター誕生』などのベテラン、エリック・ロスが参画。膨大な原作を巧みに整理して、タイトでクラシカルなストーリーを構築した。

 原作に気圧されぬように、キャスティングも豪華で個性に富んでいる。主人公に『君の名前で僕を読んで 』の美青年ティモシー・シャラメ。母親役に『レミニセンス』のレベッカ・ファーガソン、父親役に『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』のオスカー・アイザック。さらに『ボーダーライン』のジョシュ・ブローリンをはじめ、スウェーデンの名優ステラン・スカルスガルド、レスラー出身のデイブ・バティスタ、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』のゼンデイヤなど多士済々。さらに台湾からチャン・チェン、『アクアマン』のジェイソン・モモア、スペイン名優ハビエル・バルデムも登場する。まさに壮大な世界に負けない、絢爛たる顔ぶれである。

 西暦10191年、人類は地球からさまざまな惑星に移住し、宇宙帝国を築いていた。

 帝国には1つの惑星をひとつの領家が治める制度が敷かれていた。大きな勢力を誇るレト・アトレイデス公爵は皇帝の名を受け、これまでの緑なす惑星を離れ、通称デューンと呼ばれる砂漠の惑星アラキスを治めることになった。

 アラキスは老化を防ぐ香料メランジの唯一の生産地だった。アトレイデス家に莫大な利益をもたらすと考えたレト公爵は、息子のポール、愛妾のレディ・ジェシカとともにアラキスに向かうが、それは恐るべき罠だった。

 メランジの採掘権を持つハルコンネン家と皇帝が結託して、アトレイデス家の滅亡を図ったのだ。なんとか逃げ延びたジェシカとポールだったが、砂漠のなかで命を狙われることなる――。

 まずいいたいのは、本作はIMAXで鑑賞することを断固お勧めしたい。巨大なスクリーンに繰り広げられる映像。これはひたすら素晴らしい! 

 ただただ画面に惹きつけられ、熱い感動に包まれた映画体験。155分の長さが随分と短く感じる。最初に言っておくと、本作は第1弾。「デューン」シリーズのとば口に過ぎないのだが、それでも圧倒的な映像と重厚な語り口に酔わされる。ヴィジュアル・インパクトに富んだ映像の数々に釘付けとなる。これまでのSF作品にありがちなCG、VFXのみが目立つ映像ではなく、若きヴィルヌーヴが決意したごとく“自然”が作品の前面に押し出されている。アトレイデス家がかつて治めていた緑なす惑星の深みのある森林、湖。そしてアラキスの圧巻の砂漠。どこまでも砂の世界がディテール細やかに再現されているのだ。

 そのなかで語られるストーリーはどこまでも重厚で、骨太だ。人間の持つ欲望を露わにした展開は古典的であると同時に説得力があり、さまざまな感情をもたらす。シャークスピアの戯曲をほうふつとすると書くといささかオーバーか。

 ヴィルヌーヴの物語らんとする意志が画面に隅々にまで漲っている。これまでの作品で披露したさまざまな貌が本作にいかんなく発揮されている。脂の乗り切ったヴィルヌーヴの演出に素直に脱帽したくなる。

 嬉しいのは本作が第1弾だということだ。これほど圧巻の映像体験がまだまだ続くという喜びにしばし浸りたい。必見である。