『最後の決闘裁判』はマット・デイモンとベン・アフレックが再び脚本に挑んだ、歴史ミステリ!

『最後の決闘裁判』
10月15日(金)より、TOHOシネマズ日比谷、TOHOシネマズ六本木ヒルズ、ユナイテッド・シネマアクアシティお台場、T・ジョイPRINCE品川ほか、全国ロードショー
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
© 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.
公式サイト:https://www.20thcenturystudios.jp/movie/kettosaiban.html

 1998年に『グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち』の脚本を手がけ、同作に出演したことでマット・デイモンとベン・アフレックはスターの座を手にした。

 この作品はアカデミー賞脚本賞を手中に収め、デイモンはアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた。アフレックは多少、デイモンよりも遅れたが、『アルマゲドン』や『パールハーバー』などの大作で個性を発揮。なにより『タウン』や『アルゴ』などの監督作でも実力を発揮してみせた。

 今や、映画界で破竹の進撃を続けるふたりだが、24年ぶりにチームを組むことになった。ただし本作では『ある女流作家の罪と罰』の脚本家ニコール・ホロセフナーを迎えて、男女3人で脚本を完成。14世紀に起きた歴史的な事件をもとに、複層的な視点から作品を構築するスタイルを取っている。ディズニーの試写会で、その出来ばえをとくと吟味してみた。

 製作も兼ねているデイモンは、監督に『ブラックホーク・ダウン』や『グラディエーター』など、幅広いジャンルに渡って傑作を生みだすリドリー・スコットを熱望。スコットを口説いたときに、デイモンが引き合いに出したのが黒澤明の『羅生門』だったという。事件の関係者それぞれの視点でストーリーが浮き彫りにされる展開である。当然、この依頼に魅了されたスコットに異論はなく、本作が誕生することとなった。

 考えてみれば、スコットの監督デビュー作は1977年の『デュエリスト/決闘者たち』。以降の作品でも決闘については何かと因縁がある。しかも、背景は14世紀のフランス。英国との百年戦争の最中であり、オスマントルコとも戦い、遠征と出兵が繰り返されていた頃。さらに巷ではペストが猛威をふるっていた。いわば死が日常的で間近なものであり、人々は抑圧された生活を送っていた時代にスコットは惹かれたのだろう。とことん、時代の様相をリアルに再現するため、フランス、アイルランド、アイスランドにロケーションを敢行。荒々しさを内包した当時の社会状況をくっきりと浮かび上がらせている。

 さらに出演者はデイモンに加え、『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』や『ブラック・クランズマン』などで個性を発揮するアダム・ドライヴァー、テレビシリーズ「キリング・イヴ/Killing Eve」で注目を集めたジョディ・カマーがヒロインに抜擢された。さらにアフレックは脇役で怪演を披露する趣向。

 ストーリーは、騎士ジャン・ド・カルージュが妻マルグリッドを強姦した罪で宮廷家臣ジャック・ル・グリを弾劾したことから、決闘裁判に至る過程を三者三様の視点から綴っていく。

 名門の家に生まれながら、軽率で凡庸なところのあるジャンは、上司であるアランソン伯爵に疎まれ、次第に没落する。フランスを裏切ったことのある騎士の娘マルグリッドを妻に迎えるが、さらに活動の場を狭められていく。ある日、妻から友人のジャックに乱暴されたと告白される。

 友人のジャンをとかく支えてきたジャックはアランソン伯爵の覚えめでたく、出世を重ねて、ジャンが継ぐはずだったジャンの父の役職に就く。頭の回転の良さ、如才のなさを活かし、伯爵のもとで権勢をふるうが、ジャンの妻に一目惚れ。彼女に焦がれてしまう。

 ジャンと結ばれたマルグリットだったが、夫は実務能力がなく、思いやる心もない。それでも懸命に家を守ろうとするが、権勢を手にしたジャックに言い寄られる。

 果たしてマルグリットは強姦されたのか。当時は名誉がなにより重んじられた社会。実際に事があったかどうかよりも、その恥を甘んじて受けて生きていかれるかどうかが問われる。ジャックは軽い気持ちでマルグリットをわがものにする。決して事を公にしないだろうとの思惑のもとで。だが、マルグリットはあえて表沙汰にした。賭けに出た。もし決闘裁判で、夫が負ければ自分も全裸でさらし者になり虐殺される。それでもいいと考えている。夫を頼ったわけではない。夫もジャックも自らの自尊心のために死力を尽くす。決して彼女のためではないことは彼女自身も分かっている。

 どこまでも女性をないがしろにする社会。因習に縛られて女性が女性をないがしろにする社会にマルグリットは反旗を翻したような印象を見る者は受ける。三人の脚本はそこまではっきりと語っているわけではないが、浮かび上がってくるのは男社会に胡坐をかいた男たちのつまらない見栄と自尊心。こんな封建的な風潮が、現代にも引き継がれている事実を知らしめてくれる。

 スコットはどこまでも時代再現に力を入れ、そこで繰り広げられるドラマを重厚に語る。登場する男たちの器の小ささ、ヒロインの底知れぬ恨みを浮き彫りにしながら、クライマックスの決闘裁判に引っ張っていく。歴史的事実なので結末は分かっているのだが、それでも手に汗を握るアクション。一進一退の戦いにひたすら熱くなる。

 ジャン役のマット・デイモンの凡庸さ、ジャック役のアダム・ドライヴァーの才走った軽率さはともに適役といっていい。ヒロイン・マルグリットに扮したジョディ・カマーの美貌も際立つ。またアランソン伯爵に扮したベン・アフレックは当時の実力者の放蕩ぶりを気持ちよさそうに演じている。

『羅生門』のようにそれぞれの証言の食い違いを突きつめる内容ではないが、それぞれのキャラクターの器やプライドが浮き彫りになる展開。秋にふさわしい、大人志向の作品といえそうだ。