『共謀家族』は映画を愛する男が家族を率いて完全犯罪に挑むという、ミステリー心を刺激する快作!

『共謀家族』
7月16日(金)より、新宿バルト9、T・ジョイPRINCE品川ほか、全国順次公開
配給:インターフィルム/アーク・フィルムズ
© 2019 FUJIAN HENGYE PICTURES CO., LTD, WANDA MEDIA CO., LTⅮ
公式サイト:kyobokazoku.com

 近年、中国本土が最大の映画市場と認知されたこともあり、世界の興行収入ランキングが様変わりしつつある。

 これまでのようにアメリカ映画のブロックバスターが独占するばかりではなく、中国愛国礼賛大作やアクションなどもチラホラ顔を出すようになったのだ。中国版『ランボー』的共産主義絶賛作品は願い下げだが、より中国人の心情に寄り添った作品が今後さらに市場を賑わしていくことは間違いない。

 本作品は中国で21週間に渡って興行収入ランキングのトップ3を飾ったことが話題になった。とはいえ愛国ものではない。平凡な家族が降りかかってきた災難から逃れるために、知恵を絞るサスペンス。無類の映画好きが古今の映画を参考にして、完全犯罪を目論むという嬉しくなる設定となっている。

 もっとも本作はオリジナル作品ではない。2013年にインドで大ヒットしたマラヤ―ラム語作品『Drishyam』をもとに、ヒンディー語でリメイクした『ビジョン』(2015、Netflixで配信)を、微妙に設定をずらし、中国ならではのモラルを施してリメイクしている。脚色に当たっては、多くの才能がアイデアを出し、最終的にヤン・ウェイウェイ、ジャイ・ペイが脚本にまとめ上げた。

 監督のサム・クァー(柯汶利)は本作が長編デビューとなる。マレーシアのペナン出身で、台北国立芸術大学を卒業し、短編作品で高い評価を受けている。作品の内容的に舞台を東南アジア、タイに設定するなど細かい配慮のもとで、映像を実現させている。

 出演者は、中国では歌手、俳優、監督、脚本家の顔を持つマルチ・タレントとして広く知られるシャオ・ヤン(肖央)を軸に、『薬の神じゃない!』のタン・ジュオ(譚卓)、『ラスト・エンペラー』の名女優ジョアン・チェン(陳沖)。さらに『SHOCK WAVE ショック ウェイブ 爆弾処理班』のフィリップ・キョン(姜皓文)と香港映画界が誇るベテラン、チョン・プイ(秦沛)に加えて、ジョアン・チェンの次女、オードリー・ホイ(許文珊)も顔を出す。充実した顔ぶれである。

 幼い頃に中国からタイに移住したリー・ウェイジエは、小さなインターネット回線会社を経営しながら、妻や高校生の長女、まだ幼い次女と4人で幸せに暮らしている。穏やかな性格の彼は、映画マニアとしても知られ、地域の住民たちから好かれていた。

 だが、ある日、サマーキャンプに出かけた長女ピンピンが、不良高校生のスーチャットに睡眠薬を飲まされ、暴行の様子を撮影されてしまう。

 動画をネットに上げると脅されたピンピンは、スーチャットと揉み合いになり、誤って彼を殺害してしまう。まずいことにスーチャットは警察局長の息子だった。

 全てを聞いたリーは、家族を守るために、これまで見てきた映画のトリックを応用し、捜査を読み切った上での完全犯罪を計画。警察の事情聴取に備え、妻子に想定尋問を繰り返して、隠ぺいの行動に移すが、予想もつかない結末が待っていた――。

 サム・クァーは、冒頭に悪徳警官の不当な日常をさりげなく紹介しておいて、スピーディな語り口で本論に入る。こんな警察に家族を引き渡すわけにはいかないと、観客にも納得させた上で、完全犯罪に挑む仕掛けだ。詳細は興を殺ぐので避けるが、基本は完全なるアリバイと、事件そのものの隠蔽だ。なるほど、主人公と家族のツボを得た行動は見ていて痛快になる面白さだ。

 さらに事件を立件しようと鬼のような捜査を繰り広げるのは女性警察局長というのも凄味がある。息子の失踪に半狂乱になりながらも、夫は議員という権力者の地位を利用して、違法であってもお構いなしに主人公一家を追いつめていく。いかにして危機を脱するか。監督はサスペンスを盛り上げながら、グイグイと見る者を惹きこんでいく。予断を許さない展開に拍手を送りたくなる。

 それにしても、驚かされるのは最後のモブシーンだ。善良な家族を見かねて、民衆が立ち上がるというところまでは予想していなかった。ここまで家族に味方しているのだから、最後まで徹底してほしかったと思うのだが、結末がなんとも惜しい。腐敗した官憲に反抗し、暴動まで起きてしまう展開は、なるほど中国本土を舞台にしてはつくれなかったと納得。とはいえ、遠い東南アジアならば許されることがおかしい。ただ、タイであろうとも、東南アジアのどこの国であろうとも、中国系の人々が中枢にいる事実はあるから、なまじ絵空事にも思えない。

 出演者では朴訥そうな善人顔のシャオ・ヤンが巧みなパフォーマンスで場をさらうが、驚くのは女性警察局長に扮したジョアン・チェンの演技だ。息子可愛さのあまり、ひたすら鬼と化して追求しまくる。なまじ整った顔立ちが、怒りに打ち震える風情は彼女の作品歴のなかでも突出している。彼女の出演がこの映画のサスペンスを盛り上げたのは間違いがない。

 意外に映画ネタが少ないのが不満だが、完全犯罪を扱ったミステリーとして十分に満足できる。まずは一見をお勧めしたい。